Infcurion Insight

決済業界・Fintechの最先端情報を届けるニュースメディア

友人コミュニケーションと送金

Julia Tim/Bigstock.com

SNSや電話帳で繋がっている相手に「送金」できるKyashや、割り勘の請求paymoなどの登場で活気付いている日本の個人間送金サービス。送金サービス自体は今までもありましたが、これらの新アプリは消費者の行動導線上にうまく送金行為を組み込もうという意図が見えるのが興味深いところです。

例えばKyashはTwitterや電話帳で繋がってさえいれば、相手がKyashユーザでなくとも送金や請求することができます。個人間では、お金のやりとりの前提としての人間関係が存在するという事実に立脚して、自然な利用導線を創りだしています。paymoも、まずは誰かが立替払いしている前提で、割り勘請求するというところに自然な利用導線があります。

Kyashについては以下のインサイト記事も参照ください:

個人間送金サービスというのは、ただお金を送る機能があればいいというものではありません。この点を汲み取ったサービスは既に海外で登場しており、成功を収めているものもありますので、今回はそれらの概要を紹介しようと思います。

送金によるコミュニケーション:Venmo

日本の決済業界でもよく知られるのが米国のVenmo。個人間送金で、若い世代を中心に圧倒的な存在感を誇っています。2016年の送金取扱高は176億ドルと、日本円換算で1兆円を軽く超えています。2015年実績と比較しても2倍に増えており、まだまだその成長は止まっていません。

2009年に開始したVenmoが消費者の支持を得て拡大を続けてきた理由の一つが、ソーシャル的な機能です。これは、Venmoで送金する際に、そのやりとりを自分の友人ネットワークに公開するかどうか選択できる機能。日本の業界関係者の多くは「そんなの使うの?」という感じでしょうが、実際に公開を選ぶユーザが多いのです。送金の際には「この前はありがとう」的なメッセージを添えることができるのですが、これをわざと奇妙なメッセージにして、内輪で楽しむという行動が広く普及しているのです。日本から世界に広まったEMOJI(絵文字)も多様されているとか。

Venmoのソーシャル的機能のイメージは、同社サイト(https://venmo.com/)のトップにある動画を見るとわかりやすいです。友人たちの送金がタイムラインに表示されており、皆の動向を把握することができています。

最近ですと、若い男女がデートしたとき、男性がその場で支払いをしておいて、後日その男性から割り勘請求がVenmoで女性に届く、というのが、「次のデートは無い」という意思表示になることもあるとか。これはきついですが、Venmoによるコミュニケーションの一つのかたちを言えますね。

参考情報:

コミュニケーションあるところ送金あり

Venmoは「送金アプリ+コミュニケーション」という感じですが、逆に「コミュニケーションアプリ+送金」という形態もあります。Facebookメッセンジャーなどのメッセージアプリに送金機能が搭載される場合です。

日本では開始していないですが、米国ではFacebookメッセンジャーにも送金機能があります。最近ではそちらにも割り勘請求機能が出たとのことです。

冒頭で述べたとおり、個人間送金には前提としての人間関係があります。一緒に何かをした、一緒に何かを買った結果としてのお金のやりとりがあるのです。それらのコミュニケーションにはメッセージアプリを使うのが通常ですが、いざお金のやりとりとなるとモバイルバンキングやVenmoなど別アプリを立ち上げるのが一般的でした。これではユーザの行動導線が切れて、送金アクションを他アプリに取られることになります。

メッセージアプリ事業者としては、ユーザにできるだけ多くの時間を自アプリで過ごしてもらうことが事業的成否を分けます。送金しようとしたときにユーザが去っていくのを防止するには、自アプリ内で送金できるようにするのが早道というわけです。

ところで、日本でメッセージアプリといえばLINE。そのLINEも「LINE Pay」での送金サービスを提供していますが、上で述べたような考え方が根底にあると思われます。

メッセージアプリと送金に関しては以下のインサイト記事も参照ください:

送金におけるユーザ接点の取り込み

さて、

  • 送金アプリ+コミュニケーション(例:Venmo)
  • コミュニケーションアプリ+送金(例:Facebookメッセンジャー、LINE)

というパターンを見てきましたが、これだけですとカードイシュアや銀行は単に資金の入れ物として動作するのみで、送金におけるユーザ接点が無いことになります。

そこで紹介したいのがイスラエル発の「Paykey」。銀行は、Paykeyと提携することで、他社メッセージアプリに自社モバイルバンキングを連携させることができ、送金アクションをうまく自社モバイルバンキングに流し込むことができるという面白いサービスです。

Paykeyサイト:https://www.paykey.com/

Paykeyが提供するのは、スマートフォンでメッセージアプリを使うときのキーボードのアプリ。このキーボードアプリを通して、ユーザはメッセージアプリを使います。送金したいときには、Paykeyキーボードについている送金ボタンを押すと、その内容がモバイルバンキングに連携されて送金が行われる、というもの。

ここで面白いのは、銀行は自社モバイルバンキングとPaykeyをシステム連携させておく必要がありますが、メッセージアプリとの提携などは不要なこと。Paykeyによると、例えばWhatsUpなどAPI公開していない他社メッセージアプリとも連携できるとしています。

これは、Paykeyがユーザとのやりとりを全て仲介しており、通常のコミュニケーションはそのままメッセージアプリに流し込んでいて、送金に関する操作はモバイルバンキングに送り込む、という構造だと思われます。昨今話題の銀行APIの議論の枠組みでは、Paykeyは「電子決済等代行業者」(欧州でいうPISP)的な立ち居地になるように思います。(注:筆者の想定であり、実際の法的な位置づけを断定するものではありません。)

今回は「友人コミュニケーションと送金」について、「送金アプリ+コミュニケーション」、「メッセージアプリ+送金」、そして「キーボードアプリ+PISP的機能+メッセージアプリ連携」というパターンを見てきました。「送金の背景にある人間関係」に着目したサービスで、個人間送金がもっと便利になっていくことは、今後のキャッシュレス化の重要な要素になっていくと思います。