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日本のキャッシュレス決済の状況 ~決済動向調査2020~

毎年3月に実施している「決済動向調査」ではQRコード決済の利用率が43%に達し、1年間での増加の幅が30ポイント以上という驚異的な拡大を遂げたことが明らかになりました。消費増税とポイント還元の恩恵を受け、電子マネーの利用率も1年で2割増加し60%に。今回は「決済動向調査」から、日本のキャッシュレス化とQRコード決済の状況に関する結果を紹介します。(2021年の最新調査はこちらをご覧ください。)

調査結果のポイント

  • 2020年3月時点のQRコード決済アプリの利用率は43%、2019年3月の12%から4倍近くに拡大、増大の幅は30ポイント以上
  • 2019年の消費増税と「キャッシュレス・消費者還元事業」の効果は電子マネーにおいても顕著、利用率は60%に到達
  • 個別サービスの利用率では楽天カード(40%)が首位、2位は交通系電子マネー(36%)、3位はPayPay(29%)、4位はWAON(21%)、5位はnanaco(19%)
  • QRコード決済アプリ利用者の男女比は52:48、2019年3月の60:40という男性偏重の状況から大きく改善
  • QRコード決済アプリではPayPayが圧倒的首位、LINE Payは順位を落とした
  • 全ての性年齢階層でQRコード決済アプリの利用率が30%超、幅広く利用獲得している状況
  • QRコード決済利用におけるお金の出どころでは銀行口座チャージが国際ブランドカードを僅差で抑えてトップ

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「決済動向調査2020」の概要

2015年から毎年3月に実施している「インフキュリオン決済動向調査」は、「全体調査」と「詳細調査」の2段階で構成されるインターネット調査です。調査地域は全国、対象者条件は16才から69才の男女。

インフキュリオン「決済動向調査2020」の概要

「全体調査」では2万人を対象に、主要決済サービスの保有状況と利用状況を調査しています。「詳細調査」では824人を対象に、生活行動・金融行動・決済行動に関して幅広く質問しています。単に「カード決済を使っているか?」ではなく、「どんな生活スタイルの人がどんな決済サービスを利用しているのか」といった、突っ込んだ疑問に対する示唆を得られるよう設計しています。

「詳細調査」では、定点観測的に毎年繰り返している質問と、その年のテーマとして新たに設計している質問があります。2020年の最新調査での調査項目には以下が含まれています:

  • QRコード決済アプリ
  • 金融アプリ・生活アプリの利用動向
  • キャッシュレスと現金への考え方
  • サブスクリプションの利用動向
  • 個人への送金手段
  • EC向け決済サービス

今回は最新調査のうち、キャッシュレス決済の利用状況に関する結果の一部を紹介します。

電子マネーとQRコード決済の拡大

まず最初に主要な以下の5種類のキャッシュレス決済サービスの利用率です:

  • クレジットカード
  • 電子マネー
  • 国際ブランドデビットカード(以下、ブランドデビット)
  • 国際ブランドプリペイドカード(以下、ブランドプリペイド)
  • QRコード決済アプリ

各カテゴリーのうちいずれかのサービスを「利用している」と回答した割合:直近1年

2万人を対象に、利用している決済サービスを複数回答で調査した結果が以下のグラフです。2019年3月と10月の調査と合わせ、1年間の推移を可視化しています。

注目なのは、QRコード決済アプリの大躍進。1年間で12%から43%へと利用率が驚異的な拡大を記録しました。

また、電子マネーの利用率も49%から60%へと拡大。消費増税とポイント還元の効果を着実に取り込んだことが見て取れます。

もともと利用率の高いクレジットカードには変化は無し。ポイント還元施策は、クレジットカード利用率のさらなる増加には繋がりませんでした。

Visa・JCBのロゴのついたブランドデビット、Visa・Mastercard・JCBのロゴのついたブランドプリペイドは、消費増税直後の10月調査では利用率が上がったものの、最新の調査では1年前の水準に戻っています。

ここまでは1年間の利用率の推移でした。次のグラフは、2015年調査からの推移を可視化したものです。より長期のトレンドを見ることができます。

各カテゴリーのうちいずれかのサービスを「利用している」と回答した割合:2015年以降

各カテゴリーのうちいずれかのサービスを「利用している」と回答した割合:2015年以降クレジットカードは横ばい。電子マネーは最近の1年間で拡大。ブランドデビットとブランドプリペイドは拡大の踊り場に。そしてQRコード決済アプリは大躍進、という大きな動きがわかると思います。

個別サービスでは楽天カードが首位

次に、カテゴリーごとの利用率ではなく、個別の決済サービスの利用率を見てみます。母数は2万人です。

2万人における個別サービスの利用率

個別サービスの利用率では楽天カード(40%)が首位、2位は交通系電子マネー(36%)、3位はPayPay(29%)、4位はWAON(21%)、5位はnanaco(19%)という結果となっています。

巷ではPayPayの拡大が話題になることが多いですが、利用率で見ると日本最大のクレジットカードである楽天カードが堂々一位です。

赤色で示しているのがQRコード決済アプリ。新興勢力でありながら、伝統あるクレジットカード会社と肩を並べて上位入りしているところに、日本のキャッシュレス市場の活発さが表れています。また、手軽さが売りの電子マネーも上位を占めています。ブランドプリペイドではau WALLETプリペイドカードのみが利用率7%で上位に入りました。ブランドデビットで利用率5%に達したものはありませんでした。

QRコード決済アプリの首位はPayPay

次に、今回の調査で「何等かのQRコード決済アプリを利用している」と回答している8591人が、実際に利用しているサービスを見てみます。複数回答です。

QRコード決済アプリ利用者における各アプリの利用率

過去の調査と同じように、PayPayの圧倒的な首位には変化なしです。

10月調査で2位だったLINE Payは、今回は4位まで順位を落としています。

ここで注目したいのは、後発組のメルペイ。メルカリの売上金でそのまま買い物ができるという特徴的な利用導線が功を奏したのか、利用率16%で5位に喰いこんでいます。

QRコード決済の利用者像

それでは、QRコード決済の利用者像に迫ります。まずは男女構成です。2019年3月調査では男女比60:40という男性偏重な構成となっていました。今回調査では男女比52.48と大きく改善しています。男女まんべんなく利用しているという健全な状況です。

QRコード決済アプリ利用者8,591人の男女構成

上図では参考に、クレジットカード・ブランドデビット・ブランドプリペイド・電子マネーそれぞれの利用者の男女構成も示しています。クレジットカード、ブランドプリペイド、電子マネーは男女ほぼ半々ですが、ブランドデビットだけは男性が女性の1.5倍という構成になっています。その理由としては、ブランドデビット利用者はネット銀行のカードを利用していることが多いことが考えられます。ネット銀行は従来型銀行と比べ、男性利用者がそもそも多いため、ブランドデビットも男性が多くなりがちです。ブランドデビット利用拡大のためには、女性ユーザー獲得が一つの課題と言えそうです。

次に、性年齢階層ごとのQRコード決済アプリ利用率です。全ての階層で利用率は30%を超えており、幅広い層で利用が浸透していることがわかります。また、男女とも30代の約半数が利用者となっています。

性・年代別QRコード決済アプリ利用率

銀行口座とQRコード決済

このように利用が定着してきたQRコード決済アプリですが、クレジットカードを登録して使う、事前にチャージして使う、獲得したポイントを使う、など使い方には様々なパターンがあります。そこで今回は、QRコード決済アプリの利用者に対して、「利用時のお金の出どころ」を調査しました。利用するすべてのチャージ元(入金場所)と、最も利用するチャージ元(入金場所)の両方について尋ねた結果を以下のようにグラフにまとめました。(サンプル数は366人です。)

QRコード決済利用におけるお金の出どころ

筆者には以外なことに、利用しているチャージ元としては、「アプリに登録した銀行口座」からの銀行口座チャージが国際ブランドカードを僅差で抑えてトップ、利用率は47%でした。クレジットカード登録がトップとなるとの想定は覆されました。

最も利用しているチャージ元では、国際ブランドカードが36%でトップ、銀行口座チャージは28%で2位でした。

考えてみれば、QRコード決済アプリの利用率首位であるPayPayが、60社以上(執筆時点)の金融機関からの銀行口座チャージ機能を提供しているので、この結果はそう驚くべきものではないのかもしれません。

しかし日本のキャッシュレス決済市場を考える上では重要な要素です。銀行口座チャージした残高をPayPayで使う、という利用導線には、カード決済インフラが関与していません。長らく日本のキャッシュレス決済を牽引してきたカード決済が、完全にバイパスされる利用導線が既に出現しその存在感を高めている。

これはまさしく、日本のキャッシュレス決済市場の大きな構造変化の兆しに思えてなりません。

今回は「決済動向調査2020」から、キャッシュレス決済の利用動向に関する結果を抜粋して紹介しました。他の領域に関する結果についても、順次このインフキュリオン・インサイトにて紹介していこうと思っています。ご期待ください。