毎年3月に実施している「決済動向調査」と同じ形式で6月末に実施した「決済動向6月調査」の結果を紹介します。新型コロナ禍に伴う4月上旬の緊急事態宣言発令、そして昨年10月からの経産省「キャッシュレス・ポイント還元」の6月末での終了。消費者の買い物行動と決済行動を大きく変えてしまう事象が相次ぎました。日本の消費者の決済サービス利用の動向を最新のデータで考察します。今回は全体動向と、経産省「キャッシュレス・ポイント還元」のインパクトに関してご紹介します。
「決済動向6月調査」のポイント
- 2020年6月時点のQRコード決済アプリの利用率は48%、2019年3月時点の12%から4倍に拡大、増大の幅は26ポイント
- 「キャッシュレス・ポイント還元」のために新たなQRコード決済アプリの利用を始めた人が全体の33%。新たなクレジットカードの利用を始めた人は22%
- 個別サービスの利用率では「楽天カード」(41%)が首位、2位は交通系ICカード(37%)、3位は「PayPay」(33%)
- 「キャッシュレス・ポイント還元」が始まってからの買い物のやり方の変化について調査。49%の人は、ポイント還元のあるお店ではなるべくキャッシュレス決済するようにした。ポイント還元の有無に関わらずなるべくキャッシュレス決済するようにした人は23%。なるべくポイント還元のあるお店で買い物するようにした人は19%
- キャッシュレス決済と現金の今後の利用意向を尋ねる設問では、キャッシュレス決済を利用したい人が65%、現金とキャッシュレス決済の両方を利用したい人が14%。合計79%の人がキャッシュレス決済を利用する意向
- キャッシュレス決済と現金それぞれの利用理由と合わせた回答率では、「支払いが速く済む」(54%)、「ポイントなど特典が有利」(48%)、「大金を持ち歩かなくて済む」(33%)という理由でキャッシュレス決済を利用するとの回答が上位
- 「現金に触りたくない」という忌避感を挙げた人は19%
- 「支払い時の店員との接触を少なくしたい」という接触忌避感を挙げた人は13%
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- 「日本のキャッシュレス決済の状況 ~決済動向調査2020~」、インフキュリオン・インサイト、2020年6月11日
- 「QRコード決済の利用率は48%。 外出自粛期間の影響で、44%が消費行動に変化」、プレスリリース、株式会社インフキュリオン、2020年7月15日
目次
「決済動向6月調査」の概要
インフキュリオンでは2015年以降、毎年3月に「決済動向調査」を実施しており、その結果はこの「インフキュリオン・インサイト」や雑誌メディア等でたびたび紹介しています。今回紹介する「決済動向6月調査」は、「決済動向調査」と同様に、全国の16~69才の男女を対象とするインターネット調査です。主要な決済サービスの利用状況を調査したほか、「キャッシュレス・ポイント還元」による行動変化、新型コロナ禍における外出自粛による買い物行動変化、そして外出自粛による金融デジタルチャネル利用の変化に関して調査している点が大きな特徴です。
外出自粛による行動変化については別記事で紹介予定です。今回は全体動向と「キャッシュレス・ポイント還元」のインパクトに絞って紹介します。
「キャッシュレス・ポイント還元」とQRコード決済
まず最初に、主要な決済サービスの利用状況から。クレジットカード、国際ブランドデビットカード(以下「ブランドデビット」)、国際ブランドプリペイドカード(以下「ブランドプリペイド」)、電子マネー、そしてバーコード/QRコード決済アプリ(以下「QRコード決済アプリ」)に関して、2万人のうちの利用者の割合を算出しています。2019年3月からの4回分の調査結果で直近15か月の利用率の推移を示したのが以下のグラフです。
まず目に入るのが、QRコード決済アプリの大躍進。2019年3月時点の12%から4倍に拡大、増大の幅は26ポイントという大きな成長を遂げています。
電子マネーの利用率も49%から61%に拡大。QRコード決済各社のようなキャンペーンの派手さはありませんでしたが、「キャッシュレス・ポイント還元」という追い風を着実に取り込めたようです。
もともと利用率の高いクレジットカードには大きな変化なし。減ってはいませんが増えてもいません。
Visa・JCBのロゴの付いたブランドデビット、そしてVisa・Mastercard・JCBのロゴのついたブランドプリペイドには拡大の勢いがありません。「キャッシュレス・ポイント還元」は強い追い風とはならなかったように見えます。
「キャッシュレス・ポイント還元」のために利用を始めた決済サービス
次のグラフは、「キャッシュレス・ポイント還元」のために利用を始めたサービスに関する回答を、カテゴリーごとに集計したものです。
33%の人は「キャッシュレス・ポイント還元」のために新たなQRコード決済アプリの利用を開始。22%の人は新しいクレジットカードの利用を始めました。
QRコード決済アプリの、ユーザー獲得力を見せつける結果となりました。
下の図は、2015年3月からのすべての調査における各カテゴリーの利用率をグラフ化したもの。クレジットカード利用率の安定感、最近の電子マネー利用の伸び、そしてQRコード決済アプリの飛躍的な伸びが見て取れます。
楽天カード首位、QRコード決済各アプリも多数が上位入り
上記はカテゴリーごとの利用率でしたが、実際の調査では個別の決済サービスを挙げて、それぞれの利用状況についてデータを集めています。個別サービスの利用率を最も高いものから並べたものが下のグラフです。(利用率5%以上のものまで。)
個別サービスの利用率では「楽天カード」(41%)が首位、2位は交通系ICカード(37%)、3位は「PayPay」(33%)という結果。短期間でトップ3に入った「PayPay」の勢いには目を見張るものがあります。
楽天グループからはトップの「楽天カード」以外にも「楽天Edy」(14%)、「楽天ペイ」(13%)、そしてブランドデビットで「楽天銀行」が上位入りしており、「楽天経済圏」の強さ、その要としての決済サービスの位置づけが現れています。
このグラフの赤い縦棒はQRコード決済アプリ。熾烈な競争が繰り広げられている日本の決済サービス市場で、これほど多くのQRコード決済アプリが利用率上位に入っていることは驚きです。まさに進行中の市場構造変化が表れています。
「キャッシュレス・ポイント還元」がもたらした行動変化
さていよいよ、経産省「キャッシュレス・ポイント還元」のインパクトを示すデータを紹介します。まずは買い物のやり方の変化。
買い物のやり方についてあてはまるものを複数回答で全て選んでもらっています。
約半数の消費者が、ポイント還元の加盟店ではキャッシュレス決済を選択するようにしていました。ポイント還元の有無に関わらずなるべくキャッシュレス決済を利用していた人も23%。「キャッシュレス・ポイント還元」は確実にキャッシュレス促進に効果があったと言える結果となりました。
また、19%の人は「なるべくポイント還元に参加しているお店で買い物するようにした」と回答しており、ポイント還元施策の送客効果も確認できました。
キャッシュレス決済の利用意向は高水準
キャッシュレス化に効果のあったポイント還元ですが、巷では「ポイント還元が終わればまた消費者は現金に逆戻りするのではないか」との見方もあります。
そこで6月調査では、キャッシュレス決済と現金それぞれの今後の利用意向についても調査しました。キャッシュレス決済を利用したい人と、現金とキャッシュレス決済の両方を利用したい人を合わせると、79%、約8割の人がキャッシュレス決済を継続利用する意向を示しています。
キャッシュレス決済と現金それぞれの利用理由を併せた回答データをグラフ化したものが下図です。キャッシュレス利便性への高評価が作用して、キャッシュレス決済の利用意向が強く出ています。
回答の上位はキャッシュレス決済の利用理由が占めており、「支払いが速く済む」(54%)、「ポイントなど特典が有利」(48%)、「大金を持ち歩かなくて済む」(33%)など決済利便性が支持を集める結果となりました。
また、昨今の新型コロナ禍を受けて、「現金に触りたくない」(19%)、「支払い時に店員との接触を少なくしたい」(13%)もキャッシュレス決済の利用理由に挙がっています。感染症への不安のキャッシュレス促進効果を確認することができます。
興味深いことに、経産省の「キャッシュレス・ポイント還元」の終了を現金利用の理由として挙げた人は3%しかいません。「ポイント還元の終了で現金に回帰」というのは今回調査では根拠が確認できない結果となっています。