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送金アプリで給与も受け取り 米国事例

給与といえば、銀行振込が主流の日本。これをデジタルマネーで受け取れるようにするための検討が行われています。米国などでは給与受け取りのための「ペイロールカード」が既にありますが、送金アプリでも給与を受け取れるようになったものがあります。送金系フィンテックの事例として紹介します。

銀行化してゆく送金アプリ

今回紹介するのは、米国のSquare社の「Cash App」。同社は日本では店舗向けの決済サービスを展開していますが、本拠地である米国では個人間送金も長年手がけています。

もともとは「Square Cash」と呼ばれていたこのアプリは、2015年から運営されています。AppStoreのアプリダウンロード画面によると、なんと金融分野でナンバーワンとのことです。

  • アプリのホームページ https://cash.app/
  • AppStoreのページ https://itunes.apple.com/us/app/square-cash/id711923939?mt=8

個人間で送金ができるのがメインのこのアプリですが、残高をもっと便利に使えるよう、Visaデビットカードも付いています。Visa加盟店でこのカードを利用すると、アプリの残高から支払いが可能です。

Squareは銀行ではないのに、なぜ「デビットカード」なのかは、後述します。

さて、国際ブランド付きプリペイドカードで残高を利用できる送金系サービスは、日本においても存在しています。面白いのが、ACHと連携することで実現している給与受取口座機能です。上記AppStoreのページに掲載されているスクリーンショットでは、「Get Your Paycheck Deposited to the App」の画像がそれにあたります。

ACHとは「Automated Clearing House」の略で、小口の銀行口座間の資金移動を担うサービスのことです。

米国でACHといえば、日本の全銀システムのような銀行口座間の振込を担っているサービス。これが「Cash」と連携しているとなると、確かに銀行サービス色が強まった気がします。

この給与受取口座機能とは、Cashのアカウントに、ACHで取扱可能な口座番号を付与するもの。ユーザーは、こうして生成したACH上の口座番号を、給与受取口座として自分が働く会社に申告するだけ。会社側は、通常の給与振込と同様の処理をするだけで、給与が「Cash」の残高入金として支払われることになります。

このように、VisaデビットカードやACHの口座番号付与など、銀行的なサービスを展開している「Cash」。しかし、運営会社のSquareは銀行免許は持っていません。これはどうしたことでしょうか?

実は、これは米国のフィンテック業界でよくある、銀行とフィンテック企業の提携で実現されているサービスなのです。フィンテック企業がサービス開発やユーザー獲得を行い、資金の管理などは裏で提携銀行が行っている、というモデルです。先進的サービスの開発が得意なIT企業と、預金を扱うための許認可とコンプライアンス体制を持つ銀行の共生モデルです。

しかし、「Cash」が面白いのは、提携している銀行が複数あると見られること。TechCrunchの報道によると、VisaデビットはSutton Bank、ACH口座番号はLincoln Savings Bank、というように、別々の銀行の機能を用いて実現されているらしいのです。

送金サービスから始まり、ほぼ銀行のようなサービスを展開しているSquareの「Cash」。しかしこれは銀行業界を侵食しているのではなく、銀行との協力によって、銀行サービス利用のすそ野を広げているとも言えるでしょう。

参考記事: