当社が毎年3月に実施している「決済動向調査」。4回目となった2018年3月の調査では、QRコード決済への消費者の態度、そして普及に向けたポイントについての知見が得られました。今回はその一部を紹介します。
目次
インフキュリオン決済動向調査の概要
まずは調査の概要を図表1に示します。
2段階のWeb調査として構成されています。まず2万人を対象とする「全体調査」において主要なペイメントカードの保有・利用状況を調査しています。
次に824人を対象とする「詳細調査」では、生活行動・金融行動・決済行動について質問しています。単に「カード決済を使っているか?」ではなく、「どんな生活スタイルの人がどんなカードを使っているのか?」といった、業界関係者やキャッシュレス推進関係者が抱く疑問について示唆が得られるよう工夫されています。
「詳細調査」では、定点観測的に毎年繰り返している質問に加えて、その年のテーマとして新たに設計している質問があります。2018年のテーマは「QRコード決済」、「EC固有の決済手段」、「個人間の支払」でした。今回はこれらのうち、「QRコード決済」に関する結果の一部を紹介します。
カード決済利用の推移
まず図表2に、2015年から2018年の決済カード利用の推移を示します。これは、利用している決済カードを全て答えてもらう質問への回答から算出した、クレジットカード・電子マネー・国際ブランドデビットカード(以下ブランドデビット)・国際ブランドプリペイドカード(以下ブランドプリペイド)の利用率の推移を示したものです。
日本人が最も利用しているのはクレジットカード、その次が電子マネーというのは変わっていません。日本のキャッシュレス決済をクレジットカードが牽引していることがよくわかりますが、気になるのはその利用率の推移。約75%からほぼ変化無です。クレジットカードの取り扱い高は年々増大しているのですが、この調査結果とあわせると、既存利用者による利用が増えていることを示唆しています。クレジットカード非利用者を如何にしてキャッシュレス決済利用者に転換するかは、いまや国と業界の課題となっています。
そこで希望を与えるのが、ブランドデビットとブランドプリペイドの伸び。クレジットカードと較べるとまだまだ小規模ではありますが、3年間で約3倍に伸びています。クレジットカード利用率が横ばいな中、キャッシュレス決済利用のすそ野を広げるプロダクトとして今後のさらなる成長が期待されます。
決済カードの利用単価と回数
図表3に示すのは、先ほどの四大決済プロダクトの月の平均利用回数と平均利用単価です。2016年からの3回分のデータをプロットすることで経年の変化を可視化しています。
従来から、「クレジットカードは低頻度・高単価、電子マネーは高頻度・低単価」と言われていますが、この図でもその傾向が確認できます。
ブランドプリペイドとブランドデビットは、決済機能としてはクレジットカードと同等にも関わらず、消費者による使われ方は大きく違うことがわかります。ブランドプリペイドは低単価で電子マネーに近い使われ方。頻度も同様に高かったのですが、プロット期間中に大きく現象してしまっています。保有者の拡大につれて、「持っていても使わない」というライトなユーザが増えているのかもしれません。または、ブランドプリペイドでキャッシュレス決済の利便性を経験した後、クレジットカード等に「卒業」していくユーザもいると思われます。このあたり、さらなる研究が望まれます。
クレジットカードと浪費
クレジットカードを敬遠する層がよく挙げるのが、「使いすぎが怖い」という漠然とした不安。そこで今回調査では、クレジットカードとお金の使いすぎについて調査してみました。その結果を図表4に示します。
「思った以上にお金を使いすぎてしまった」と思う月が過去1年以内に何ヶ月あったかを尋ね、その結果を「最も利用している決済カードがクレジットカードである人」とそれ以外の人で比較しています。
その結果、クレジットカードユーザーとそれ以外では、お金の使いすぎ感に大きな差はないことがわかりました。クレジットカード利用の有無に関わらず、毎月のように使いすぎる人もいれば、めったに使いすぎない人もいる。そんな当然のことが、データで確認できたことは意義深いと思います。
Fintechを上回るQRコード決済認知
国内でも様々な事業者が参入しているQRコード決済。業界は盛り上がっているが、消費者にはどのように映っているのでしょうか。それを調査した結果が図表5です。
国内ではQRコード以外に、一次元バーコードを使うサービスも多くあります。また、QRコード(またはバーコード)を表示するのが消費者自身のスマホアプリである場合と店舗レジである場合が場合の両方があります。こういった状況を踏まえて、質問文では「店舗のレジでスマートフォンを用いてQRコード・バーコードを表示する、もしくは読み取ることで決済できるサービス」としています。
その結果、QRコード決済(バーコード決済を含む。以下同)を利用したことがある人は10.3%、利用したことは無いが知っている人が46.2%となり、合計56.5%の人がQRコード決済を認知していることがわかりました。
この数年間の業界流行語ともいえる「Fintech」と比較すると、QRコード決済の認知度の高さがわかります。今回調査では「Fintech」という語の認知度も調査したのですが、その結果は30%程度。QRコード決済は消費者認知において既にFintechを大きく引き離しているのです。
QRコード決済に対する印象
消費者が持っているQRコード決済への印象についても調査しました。ポジティブとネガティブの両方を含む選択肢から、当てはまるもの全てを選んでもらう形式で質問しています。その結果が図表6です。
回答者を、QRコード決済を利用したことがあるグループ(n=83)と、利用したことは無いが知っているグループ(n=369)に分けることで、利用経験がQRコード決済への印象にどのように影響するかを調べました。その結果、利用経験者と非経験者で大きな差が出る選択肢と、大きな差が出ない選択肢があることがわかりました。
まず、利用経験がポジティブに作用しているものを図表7に示します。「自分が利用している店で使えるため便利」、「スマホで完結するのは嬉しい」、「レジでカードを取り出さなくて済むため楽」といった決済利便性において、利用経験者の評価が高いことがわかります。
図表8は、利用経験がポジティブに作用していないものを抜き出したグラフです。利用経験者は、非経験者ほど「レジでスマホを使うのは面倒」とは感じていないようですが、「QRコード・バーコードを表示するor読み取るのは面倒」と感じています。実際に利用はしているものの、やはりQRコードの表示と読み取りはUXとして心地よいとまでいかないようです。
「使える店が少ないため不便」、「QRコード・バーコード決済のアプリをインストールするのが面倒」は、利用経験の有無からあまり影響されていません。非経験者から見て不便・面倒そうなのですが、経験者も同感である、ということになります。これらが非利用者のコンバージョンのハードルになることは勿論ですが、利用経験者の不満の原因にもなりえます。利用拡大に向けて業界として解決すべき課題だと言えます。
QRコード決済の継続利用
図表9は、QRコード決済の利用意向に関する調査結果です。利用経験者は、非経験者よりも、利用意向が顕著に高く出ています。
消費者からみたQRコード決済
図表7・8・9の結果をを踏まえると、消費者のQRコード決済への態度は以下のように想像できます。
- サービスのことは知っているが、アプリのインストールは面倒そう。
- そして利用してみると、インストールは実際面倒だった。
- レジでスマホを出すこと自体は抵抗はあまりないが、QRコードの表示や読み取りは煩雑。
- UXには不満があるが、利便性は高い。自分がよくいくお店で利用できるならば、今後も使いたい。
業界としては、
- 既存アプリへの追加機能とするなど、インストールのハードルを出来るだけ下げること
- 自由なタイミングでQRコード読み取りができるWalmart Payのような、慌てずに使用できるUX
- ポイントプログラムとの連動でQRコード処理が一度で終わる
などが今後の改善点になりそうです。
※QRコードはデンソーウェーブの登録商標です。