Infcurion Insight

決済業界・Fintechの最先端情報を届けるニュースメディア

国内外で注目される「Embedded Finance(エンベデッド金融)」とは

API活用型の金融サービス提供モデルであるバンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)、そしBaaSによって金融機能を組み込んだエンベデッド金融(Embedded Finance)の流れが加速しています。今回は、オープンAPIとBaaS、そしてエンベデッド金融の相互の位置づけについて解説します。

この記事はカードウェーブ誌2021年3月・4月号の特集レポート「「BaaS+エンベデッド金融」の胎動 生活/ビジネス両分野での革新力」の一部を加筆修正したものです。


日銀総裁も注目する新たな動き

2021年3月、日本経済新聞社と金融庁が主催するフィンテックイベント「FIN/SUM(フィンサム)2021」が開催されました。例年は秋開催ですがコロナの影響を考慮して期間をずらし、リアルとバーチャルの併用開催となっていました。

その初日、弊社内で話題になったのが日本銀行の黒田総裁の挨拶。「情報システムと金融システムの融合、アズ・ア・サービスの先にあるもの」と題したビデオメッセージにおいて「金融機関がこれまで一体提供していた金融サービスをアンバンドリングし、非金融企業の事業サービスに組み込めるようなかたちで提供する動き」、すなわちBaaSとエンベデッド金融に言及されたのです。まだ巷ではよく知られているとは言えないこの新たな動きについて、中央銀行総裁が言及するというのは業界人として感動的でした。

BaaSとSaaS

「BaaS」という名称は、ソフトウェアサービスにおけるSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)に倣ったもの。パッケージソフトウェアのような売り切りではなく、必要な機能を必要なときにサービスとして届けるのがSaaSの特長です。

BaaSもSaaSと同様に、必要な金融機能を必要なときにユーザーに届けるような、金融事業者の新たなビジネスモデルを指す用語として数年前から徐々に広まってきていました。「Banking」は銀行サービスを意味しますが、ビジネスモデルとしては銀行以外の金融事業者でももちろん実現可能です。日本においてはカード会社や前払支払い手段発行業者、資金移動業者にとっても重要なビジネスモデルとなっていくでしょう。

エンベデッド金融

「Embedded Finance」のほうは用語としてはさらに新しく、海外のフィンテック業界で使われるようになったは2020年。「エンベデッド(embed)」とは「組み込む」や「埋め込む」といった意味で、その受動態が「エンベデッド」。異業種サービスの中に組み込まれて、一体的なユーザー体験(UX)として提供される金融サービスの形態を指す言葉として理解できます。

「Embedded Finance」はしばしば「組込型金融」や「埋込型金融」と訳されることが多いようですが、筆者にはしっくりこない感じがします。ここは直球で「エンベデッド金融」でいこうと思います。

英語圏での「Embedded Finance」に関する初期の報道記事はこちら:

銀行オープンAPI

2017年の銀行法改正で導入された銀行オープンAPIに対する、BaaSとエンベデッド金融の位置づけも明確にしておきたいところです。「金融機関とフィンテック企業とのオープン・イノベーション(連携・協働による革新)を進めていくための制度的枠組み」(金融庁)として導入されたもので、都銀・地銀・第二地銀の多くで個人口座の参照と資金移動のためのAPIが整備済となっています。

「金融機関と異業種との連携を可能にするもの」という点で、オープンAPIとBaaS、そしてエンベデッド金融はかなり近い関係にあることはわかりますが、これらは相互にどのように位置づけて理解すべきものなのでしょうか。

オープンAPI、BaaS、エンベデッド金融を理解する

下の図に、筆者なりの理解を示します。

オープンAPI、BaaS、エンベデッド金融の全体像

まず銀行など金融事業者のオープンAPIは、当該金融事業者のシステム機能の一つであって、外部とデータのやりとりをする上でのシステム的な窓口として機能するものです。

国内の多くの金融機関では、「制度対応のためAPIを構築したはいいが、どう活用すれば事業貢献につながるのかイメージできない」というところも多いようです。APIは新しいビジネスモデルの実現手段になりうるものですが、肝心の新ビジネスモデルが無ければ宝の持ち腐れになってしまいます。そしてBaaSこそが「APIならでは」の新たな金融ビジネスモデルなのです。

次に、BaaS。これは金融事業者によるサービス提供の新たな形態です。API経由で、金融機能を異業種の非金融事業者に提供します。

非金融事業者は、APIで提供された金融機能を自社サービスに組み込む(エンベッドする)ことで、より付加価値の高いサービスを、自社ユーザーに提供することができます。このように、異業種サービスに金融機能が組み込まれた(エンベデッドされた)状態が、エンベデッド金融なのです。

このように筆者は、

  1. オープンAPIは金融事業者が持つ技術要素
  2. BaaSは金融事業者のビジネスモデル
  3. エンベデッド金融は非金融事業者のサービス形態

と理解しています。オープンAPIもBaaSも、エンドユーザーには見えないバックエンドに属しています。

エンドユーザーから見えるのは、

  • 自分が利用しているサービスが、エンベデッド金融を用いた高付加価値サービスなのか、
  • それとも金融機能を持たない従来型サービスなのか、

それだけです。エンドユーザーはあくまで非金融事業者のサービスを利用しているだけで、当該事業者が提供するUXの中で活動します。その裏で、どの金融事業者がBaaSやオープンAPIを提供しているのか、意識する必要はありません。

銀行オープンAPIとBaaSに関しては以下の記事も参照ください。