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「金融サービス仲介業」がもたらす新たなビジネス機会

2020年3月、新たな「金融サービス仲介業」を新設する法案が国会に提出されました。様々な事業者が仲介業者として金融サービスを提供することを可能にする制度改正です。仲介業者と金融機関双方の戦略に大きな影響を与え、ユーザもより利便性高く金融サービス提供を受けられるようになります。新たな制度がどのようなビジネス機会をもたらすのか、その検討ポイントについて考察します。また、参考事例として海外の金融仲介サービスを紹介します。

「金融サービス仲介業」の導入

2020年3月、「金融サービス仲介業」に関する法案が閣議決定の上、国会に提出されました。コロナ禍への非常時などを挟みましたが、本法案成立は近いと見られます。(執筆時点では国会通過はまだです。追記:6月5日、「金融サービス仲介業」を新設する改正金融商品販売法が参院本会議で可決、成立しました。)

情報通信技術の発展やキャッシュレス化の進展に伴い、消費者が求める金融サービスは急速に変化していいます。新制度の狙いは、多様な金融サービスの提供を「ワンストップ」で受けられる利便性の高い金融仲介サービスを実現すること。法案提出に先立って金融審議会で議論され、その内容は 2019年12月に同審議会が発表した報告書にまとめられています。今回の法案はその内容を踏まえたものとなっています。

新制度のポイントは以下の3つです。

  1. 業種毎の登録等を受けずとも、一度の登録で銀行・証券・保険全ての分野での仲介が可能に
  2. 特定の金融機関への所属を求めず、業務上のパートナーとして金融機関と連携・協働する関係に(所属制の不採用)
  3. 代理ではなく、媒介のみが対象

従来でも銀行代理業や金融商品仲介業、保険募集人などの仲介制度がありますが、これらは業種毎、更には仲介する金融機関毎に許可・登録のプロセスを経なければなりませんでした。今回の新制度では、ポイント1に挙げたとおり、業種毎の登録等を受けずとも1つの登録で全分野での仲介が可能になります。またポイント2のとおり、特定の金融機関への所属も求められなくなります。その分、金融機関も、仲介業者に指導等を行う義務、仲介業者が顧客に加えた損害を原則として賠償する責任を負いません。その代わりに、契約まで代行して仲介業者が行う「代理」ではなく、契約はあくまでも消費者と金融機関が行う「媒介」に絞られています(ポイント3)。

新制度の内容の詳細は以下の資料で確認できます:

それでは、上記前提を考慮に入れながら、考察に入っていきます。

金融サービス仲介業のインパクトと論点

金融サービス仲介業が登場することで影響を受けるステークホルダーは大きく「ユーザ(消費者)」・「仲介業者」・「金融機関」の3者に分かれます。

ユーザ(消費者)に与えるインパクト

本法案検討の背景にもあるように、新制度によりユーザは、金融機関以外の事業者を窓口としながら、多様な金融サービスをワンストップで受けられるようになります。ユーザが日常的に接点を持つサービスや使いやすいサービスで、金融サービスを受けることが可能になります。

一方で、普段使っているサービスに新たに金融サービスが入ってくることで、ユーザが本来期待していたサービスの体験が損なわれる可能性もあります。

仲介業者に与えるインパクト

仲介業者に与えるインパクトとしては、やはり金融サービスへの参入が一番に挙げられます。従来の規制の枠組みではハードルが高い上自由度が少なかったため参入を見送っていた事業者でも比較的容易に参入することが可能になります。

従来のサービスに加え、金融サービスを提供することで、仲介業者にとっては新たな収益源を確立できるだけでなく、ユーザに対してより多様な価値を提供できる可能性が生まれます。

一方で、ユーザ部分でも触れたように、仲介業者が提供するサービスの体験が大きく変わる可能性があります。

上記を鑑みると、仲介業者の既存のビジネスに与える影響は、ビジネスモデルの変化や提供する体験・価値の変化など、非常に大きくなる可能性を孕んでいると言えます。

なお、今回の制度では仲介業者はオンライン事業者のみならずオフライン事業者も対象として排除されておりません。その意味でも、本制度をきっかけに金融サービスに乗り出す検討を行う事業者は多いと推察されます。

金融機関に与えるインパクト

金融機関に与えるインパクトとしては、販路の拡大とユーザ接点の喪失が挙げられます。

仲介業者の顧客基盤やサービス体験によって、既存の販路に対し強力な新販路が加わることになりますが、その分、ユーザとの接点は仲介業者に集約されます。ユーザ接点はすなわち情報を収集する接点でもあるので、仲介業者の影響力は益々強くなるでしょう。

この販路とユーザ接点のバランスをどう考えていくかは各金融機関における1つの大きな論点になると言えますが、うまく活用することで、従来ではリーチし得なかったユーザを効率的に獲得することが可能になります。

サービス戦略検討の論点

上記インパクトの考察を踏まえ、次に仲介サービスを実現する上での検討ポイント(論点)を考察していきます。

まず、仲介業者にとって大事なことは既存サービスの体験を損なわず(むしろ体験を向上させて)金融サービスを提供できるか、という部分が大きいと考えます。

そのためには、自社サービスと金融サービスとの親和性や自社顧客の特性を踏まえた上で金融サービスをどのような体験・価値で提供していくかの戦略を描く必要があります。

金融機関にとって大事なことは、先ほど触れた通り販売戦略全体の見直しになるでしょう。どのチャネルでどのユーザにどんな金融サービスを提供していくのかについて、金融サービス仲介業が加わる前提で既存の戦略を再考する必要があります。

また、金融機関にとってもUX/UIの再整理は必要になります。今回の制度ではあくまで仲介業者は「媒介」になります。最終的には金融機関の導線に入ってきて申込や各種取引を実施することになります。その際に、せっかく仲介業者が媒介してくれたユーザが申込のタイミングで離脱するという事態は可能な限り防がなければなりません。(仲介業者に選ばれるという意味でも)

そのため、現在の非対面チャネルでのコンバージョンが低い金融機関については、UX・UIの見直しによる改善が求められます。(仲介業者は対面事業者の参入も考えられるものの、金融機関側の申込・取引チャネルについては非対面が中心になることが考えられます)

また、仲介業者・金融機関共に必要な検討が、「どの事業者とどのようなビジネスモデルで組むか」になります。様々な事業者とオープンに組んでいくのか、ある程度クローズな世界で協業していくのか、様々な戦略パターンが存在します。

その際のビジネスモデルについても、多く媒介してくれた仲介業者に多くのインセンティブを与えるのか、量と質をどう担保していくのか、などの論点があります。

媒介の範囲についても、どこまでを媒介してもらうのか、事業者ごとに媒介の範囲を変えるのかなど複数のパターンが考えられます。また、それらに紐づいてシステムや業務への影響も発生します。

このように、検討に当たっては様々な論点はあるものの、上手く活用することで各事業者にとって非常に大きな成長のきっかけになり得る制度だと考えておりますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

海外の金融仲介サービス事例:ChargeAfter

最後に、海外における金融仲介サービスとして、米国のChargeAfter(チャージアフター)を紹介します。日本と海外の法制度は大きく異なるため、そのまま適用できない部分もありますが、ユーザへの提供体験を考える上で参考になると思います。

ChargeAfterが提供するサービスはいわゆるEC向け「後払い決済」、購入時点で複数の貸し手にローン申込する形態の「代理」型プラットフォームです。加盟店・ユーザ・貸手の3者を結びつけています。

サービスの流れは以下のようになっています。まず、ユーザが加盟店で購入する際に、ChargeAfter経由で複数の貸手にローンを申込みます。すると、貸手はリアルタイムで与信判断しオファーを出します。ChargeAfter側で最適なオファーをリコメンドし、ユーザはローンの契約を行います。これは、現在アメリカで興隆しつつある「POSファイナンス」と呼ばれるスキームで、他にMastercardが買収したVyzeなど複数社があります。

このサービスでは、ChargeAfterは完全にユーザに寄り添ったサービスとして、自動的に最適な条件をオファーしてくれた事業者を選択しています。また、貸手の事業者も、瞬時に最適なオファーを出せるようにシステムを整えていることが伺えます。

このように、どんな体験・価値をユーザに提供するか、またそれを実現するために仲介業者や金融機関はどのようなシステムや業務を用意しなければならないのか、という観点を検討していく上で非常に参考になる事例だと思います。