保険業界にもフィンテックの波が押し寄せており、保険領域でのフィンテックは保険(Insurance)と情報技術(Technology)を掛け合わせた言葉で、インステック(InsTech)と呼ばれています。
筆者(インフキュリオン杉谷恒太)は生命保険会社での数理(アクチュアリー)業務の経験があり、たくさんあるインステックの中から、特に実務に関連のある分野の「ヘルスケア」「アンダーライティング(保険引受)」「マーケティング」に注目しました。
ヘルスケア
医療技術やビックデータ等を活用し、加入者の健康増進取り組みの促進に繋がり「健康寿命の延伸」に貢献できる生命保険やサービス
アンダーライティング
引受査定・管理の業務領域におけるAI等のデジタル技術の活用や、加入時の診査・告知項目を簡便にした利便性の向上など
マーケティング
ビックデータの解析を元に、社内外の情報の融合、マーケティングの最適化(最適なタイミングで最適な商品・サービスを提供するための取組みなど)
今回はヘルスケアについて海外のスタートアップの取組みを紹介します。
関連情報:
- 「Insurance Technologyへの取り組みについて」、第一生命保険株式会社、2016年1月12日
海外のインステック事例 ヘルスケア編
今回紹介するのはOscar。同社はニューヨークに拠点を置く保険会社で、2013年にハーバードビジネススクール出身の起業家や投資家たちが、Facebook、Google等のエンジニアを集めて立ち上げたスタートアップ企業です。
契約者数は全米で、4万人から2016年に14.5万人に増加しており、現在も増え続けています。同社の最高責任者は、5年以内に契約者数100万人を突破すると語ったと報道されています。
同社の医療保険の契約者にウェアラブル端末「MISFIT FLASH」を無料で渡して契約者の1日の運動量を記憶します。そして契約者の活動履歴や年齢・性別などに応じて1日の健康目標が設定されます(初期設定のみ契約者が行い、以降の目標設定はアルゴリズムにより自動設定)。
あらかじめ設定した健康目標をクリアするごとに毎日1ドルの報酬が付与され、目標を20回達成すると、Amazonギフトカード20ドルが手に入ります(年間最大240ドル)。
Oscarは契約者が健康であればあるほど保険金の支払いを回避できるので、双方にメリットのあるビジネスといえます。
(なお、フランスの大手生命保険会社のアクサでも同様のサービスが開始されています。)
Oscarは無料で医療相談ができるプラットフォームを提供しており、契約者は24時間365日何度でも電話で医師に相談することが可能とのこと。加えて、無料の健康診断サービスが付帯されています。実際に、同社の医療保険の契約者の60%が電話での診断を利用しており、そのうち93%が電話での診断のみで解決し、医師の訪問診療が不要になったとの結果が報告されています。
以前インサイト記事で取り上げた、Metromile社の「走行距離に応じた保険料」に近いタイプのサービスとなり、キャッシュバックを受けられる保険は面白く、今後の取組みに期待します。
次回は、アンダーライティング、マーケティングのスタートアップの取組みについての紹介を予定しております。お楽しみに!
参考情報:
- 「Start-Up Health Insurer Finds Foothold in New York」、New York Times、2014年3月28日
- 「How Health Insurance Startup Oscar Is Going to Get to 1Milion Members」、Bloomberg、2016年2月20日
- 「The INSURANCE COMPANY PAYS PEOPLE TO STAY FIT」、Wired、2014年12月8日
- 「This $1.5B Startup is Making Health Insurance Suck Less」、Wired、2015年4月20日