Apple Payとトークナイゼーション
Apple Pay(アップルペイ)が活用していることで注目を浴びているトークナイゼーション(tokenization)。これは、正規のカード番号(カード業界で言うPrimary Account Number、いわゆるPAN)を、PANと同桁数の数列であるトークンで置き換えて決済するもの。iPhone端末にはPANが入っておらず、代わりにそのiPhoneでの決済でしか使えないトークンが入っています。iPhone端末からのカード番号漏洩リスクを無くすことで高いセキュリティを実現しました。
ボストン連邦準備銀行の研究報告
EC(電子商取引)やモバイル決済が拡大を続ける中、PANをあちこちに登録する際の不安を解消する策としてカード業界が導入したトークナイゼーション。その概要とステークホルダーの見かたをまとめた報告書が、米国のボストン連邦準備銀行(米国の中央銀行にあたる連邦準備システムの一翼を担う銀行)から出ています。51頁からなる本報告書は情報の宝庫。その全貌を紹介するにはスペースが足りませんが、本稿ではその概要を紹介します。
出典:
「Is Payments Tokenization Ready for Primetime? Perspectives from Industry Stakeholders on the Tokenization Landscape」、Federal Reserve Bank of Boston、2015年6月
業界視点で見たトークナイゼーション
Apple Payが活用するこのトークナイゼーションは、国際ブランドの団体であるEMVCoが策定した仕様に基づいて、Visa・MasterCard・American Expressなど国際ブランドが提供しているサービス。2015年に開始されるSamsung Pay(サムスンペイ)やAndroid Pay(アンドロイドペイ)も、同様のトークナイゼーションを活用する予定です。
トークナイゼーションの活用が広がりを見せるなか、その概要と今後の展望をまとめたこのレポート。タイトルは「Is Payment Tokenization Ready for Primetime?」。意訳すると、「ペイメント・トークナイゼーションは、来るべき繁忙期にも耐えうるサービスか?」。つまり、Apple Payのみで使われている現状から、モバイル決済やECで爆発的に普及したとしても耐えうるだけのスケーラビリティとセキュリティを持っているのか?という刺激的なタイトルです。
副題は「Perspectives from Industry Stakeholders on the Tokenization Landscape」。「業界視点でみたトークナイゼーションの全容」となります。副題が示すとおり、このレポートは国際ブランド、イシュア、プロセッサー、加盟店、モバイルキャリアや標準化団体など31の団体に対して行ったインタビュー結果をまとめたもの。特にApple Pay導入におけるイシュアの対応事項などの内容が参考になります。
目次は以下のとおりとなっています。
- エグゼクティブサマリ Executice Summary
- はじめに Introduction
- トークナイゼーション概要 Overview of Tokenization
- トークナイゼーションの各種スキーム Payment Tokeniation Schemes
- EMVトークナイゼーション仕様の構造とプロセス EMV Payment Tokenization Specification Structure and Process
- トークン化における国際ブランドの役割 Network Role in Tokenization
- プロセッサーから見たトークナイゼーション Processor Tokenization Perspectives
- アップルペイ Apple Pay
- 加盟店から見たモバイルコマースとペイメントトークナイゼーション Merchant Perspectives on Mobile Commerce and Payment Tokenization
- 独自型のデジタルトークナイゼーションスキーム Proprietary Digital Tokenization Schemes
- その他のウォレット・トークンのソリューション Other Wallet Token Solutions
- Eコマースにおけるトークナイゼーション Tokenizaion in Ecommerce
- モバイル決済のためのホストカードエミュレーション(HCE) Host Card Emulation (HCE) for Mobile Payments
- トークナイゼーションに関する全体課題 Tokenization Landscape Issues
- 推奨事項 Recommendations
- まとめ Conclusion
さすが連銀の報告書だけあって内容は詳細です。EMVCo型のトークナイゼーションの検討経緯から始まり、「ペイメントトークナイゼーション」と「セキュリティトークナイゼーション」の定義、多様なステークホルダーの観点からのApple Pay、Apple Pay対応におけるイシュアの対応事項・課題と推奨事項、アマゾンやグーグルウォレットそしてCurrentCなどとの対比、など多岐にわたります。
英国でもApple Payが開始され、ますます日本上陸のタイミングが気になるApple PayとEMVCo型トークナイゼーション。海外での先行事例と経験に学ぶための貴重な情報源として、この報告書をお勧めしておきます。