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数字で解説:世界と日本の「タッチ決済」普及状況

先日、大手家具販売店に行ったときのことです。買い物も終わって、出口近くのフードコートで一休みしようと、飲食物を選んでレジに並びました。前のお客さんがレジで「クレジットカードで払います」と伝えると、店員は「タッチですか、差し込みですか?」と尋ねるではありませんか。お客さんは「タッチで」と答え、カードを決済端末にかざしました。タッチ決済がここまで普及したか、と感嘆しました。

国際ブランドカードをかざして決済することができるサービスである「タッチ決済」。日本における歴史は意外に長く、Mastercardブランドでは2006年、Visaブランドでは2013年、JCBブランドでは2014年には国内展開が始まっています。

国内で10年以上前からあったタッチ決済ですが、消費者の日常にはなかなか浸透していませんでした。筆者の感覚では、タッチ決済利用の本格的な拡大期が始まったのは2023年。あちこちのお店でタッチ決済に対応した決済端末を目にすることが増え、実際にタッチ決済している買い物客の姿もよく見かけるようになりました。わたしたちインフキュリオンが実施した最新の「決済動向2024年上期調査」でも、クレジットカードユーザーの間でのタッチ決済の広がりが観測できています(この調査結果については近いうちにこの場でも紹介する予定です)。

登場から10年以上をかけて拡大期に入った日本のタッチ決済。しかし現在の日本市場には、2018年の登場から爆発的に拡大し消費者の日常に定着したコード決済があります。今後のタッチ決済とコード決済のせめぎあいは、日本のキャッシュレス決済市場を見ていく上での大きな注目ポイントであると筆者は考えています。今回は、日本と世界のタッチ決済普及状況を見ていこうと思います。

「タッチ決済」とは

日本において、「かざして決済できるサービス」といえば電子マネー。カードと決済端末を数センチメートル以内まで接近させて近距離無線通信(Near Field Communication; NFC)を行うことで決済処理を完了させているという点は、電子マネーもタッチ決済も同じです。

国内電子マネーとタッチ決済の違いはICチップに搭載されている通信技術にあります。電子マネーはソニーが開発したFeliCaチップによる高速なデータ通信を使って実現されている一方、国際ブランドのタッチ決済はカード決済の標準団体EMVCoによる世界標準に基づいており、通信技術としては国際規格であるType-A/B対応のICチップが担っています。消費者にとっての使い方に大きな違いはありませんが、国内電子マネーの方式は日本や香港など一部の地域でのみ定着しているのに対して、EMV標準に基づく「タッチ決済」や「コンタクトレスカード決済」は全世界で広まっているというのが大きな違いです。

国際ブランド各社もタッチ決済の普及拡大には力を入れています。かつてはVisaは「payWave」、Mastercardは「PayPass」、JCBは「J/Speedy」といったようにそれぞれ独自のサービス名称で普及に取り組んでいましたが、現在では消費者へのわかりやすさを優先してか、各社とも「タッチ決済」の名称で消費者への訴求に努めています。

国内の普及状況

国内でのタッチ決済の普及状況を示すデータとしては、Visaによる2023年5月のプレスリリースがあります。「1億枚達成!広がるVisaのタッチ決済」というタイトルのとおり、日本のVisaのタッチ決済対応カードの発行枚数が2023年3月末で1億枚を超えたとのことです。2019年6月末時点ではまだ1000万枚を超えたところでしたので、それ以降の4年弱で発行枚数が大きく拡大したことがわかります。

なお、参考までに一般社団法人日本クレジット協会の公表データを確認すると、2023年3月末時点のクレジットカード発行枚数は3億860万枚とのことでした。単純な比較はできませんが、タッチ決済対応カードの普及が近年大きく進んでいることには疑いないでしょう。

出典:

世界の普及状況

上で触れたVisaのプレスリリースではさらに、全世界では既にVisaカードを用いた対面取引の57%がタッチ決済である、と述べています。日本でタッチ決済がゆっくりと広まっていた間に、世界ではタッチ決済が一気に主流になっていたことがわかります。

以下に、幾つかの国・地域におけるタッチ決済普及状況を数値データで紹介していきます。(日本国外ではタッチ決済は「contactless payment」ですが、以下でもタッチ決済で統一しておきます。)

ラテンアメリカとカリブ海地域

Visaによると、2022年12月時点でVisaカードの対面取引の50%がタッチ決済でした。この地域でタッチ決済対応カードの発行が始まってからまだ4年しか経っていません。そんな短期間でここまで普及したというのは驚きです。

出典:「Visa reaches 50% of contactless transactions penetration and unlocks new use cases in Latin America and the Caribbean」(https://caribbean.visa.com/about-visa/newsroom/press-releases/visa-reaches-50-per-cent-of-contactless-transactions.html

この地域に関しては、カードの種類ごとのタッチ決済比率も公表されています。もっとも比率が高いのはプリペイドカードで、対面決済件数の60%がタッチ決済。次にデビットカードで51%、そしてクレジットカードでは49%とのことでした。プリペイドカードを主に利用する非与信層による日常的な買い物でタッチ決済が浸透している模様です。

欧州

欧州地域についてはECB(欧州中央銀行)がデータを公表しています。2022年下期の全カード決済件数の53.8%がタッチ決済だったとのことです。なお、この数値を算出する際の母数には、タッチ決済が利用できない非対面決済も含まれています。対面決済に絞って筆者が計算したところ、タッチ決済の割合は65%になりました。

また、2022年下期時点のユーロ圏19カ国のうち、13カ国において、タッチ決済が(対面・非対面を含む)カード決済件数の半数以上を占めたとのことです。欧州地域も、タッチ決済普及の先進地域であるといえます。

出典:「Contactless payments in the euro area」(https://data.ecb.europa.eu/blog/blog-posts/contactless-payments-euro-area

米国

カード決済大国である米国ですが、タッチ決済の普及は遅れています。Bankrateは2022年2月に報じたところによると、タッチ決済は米国内の対面カード決済の約2割に達したとのことです。ラテンアメリカや欧州に比べると、米国でのタッチ決済の拡大はこれからということになります。とはいえ、日本での普及は米国の後を追いかけている状況と思われます。

出典:「Contactless payments surge and approach 1 in 5 in-person card payments」(https://www.bankrate.com/credit-cards/news/contactless-payments-surge-1-in-5-in-person-payments/

英国

欧州地域の中でも早いうちからタッチ決済の普及が進んでいたのが英国です。大手PSPのWorldpayが観測したところでは、月の対面カード取引の過半数がタッチ決済となったのは2018年7月のことでした。

そして英国の銀行であるBarclaysによると、2023年における100ポンド以下の対面取引の93.4%がタッチ決済だったとのこと。日常的な買い物のほとんどがタッチ決済になっていることになります。

Barclaysはさらに、2023年における85才から95才のタッチ決済利用率は80%を超えていること、そしてタッチ決済利用拡大のペースがもっとも速いのは65才を超える層であることも公表しました。タッチ決済の利便性は高齢者にも親和性の高いものであることを示すデータとして重要です。

出典:

オーストラリア

タッチ決済先進国として名高いオーストラリア。当社の森本による2018年の「キャッシュレス世界旅行」でも、オーストラリアにおいて当たり前にタッチ決済(当時の用語ではNFC決済)が使える様子が報告されています。

オーストラリア中央銀行(RBA)によると、2022年の対面カード決済の94%がタッチ決済。あまねく普及していることがわかります。

RBAのデータでもうひとつ興味深いのは、対面カード決済の3分の1はモバイルデバイスによるものであるという点。Apple Payなどの決済アプリでのタッチ決済が広く普及していることがうかがえます。コード決済が浸透している日本などアジア諸国との違いが際立っています。

出典: