2020年東京オリンピック/パラリンピック開催が一つのきっかけとなり、キャッシュレス化に向けた動きが活発化している日本ですが、さらに先をゆく姿勢を打ち出したのがデンマーク。5月6日、デンマーク政府は、2016年以降、衣料小売店・レストラン・ガソリンスタンドなど指定された業種では、現金による支払いを拒否できるようにする方針を表明しました。議会による承認を経ないと現実の制度にはなりませんが、キャッシュレス化が進んでいる同国では、特に問題なく承認されると見られています。
これは、現金を持っていても、モノやサービスを買うことができないケースを認めるもので、法定通貨(キャッシュ)に認められる強制通用力に制限を加え、クレジットカードやデビットカード、モバイル決済の地位を相対的に高めるものとして、世界の決済関係者の注目を集めています。
そこで疑問が浮かびます。キャッシュレス決済を推進するのはよいですが、キャッシュの利用に制限をかける必要があるのでしょうか。その答えとしては、社会は多大なコストを負担してキャッシュの運用を実現していることが挙げられます。
そもそも紙幣や硬貨はとても汚いことは周知です。いちいち手を洗う必要があることもコストの一つ。また、キャッシュは破損・紛失・盗難のリスクがあります。脱税や犯罪収益の移転(いわゆるマネーロンダリング)も助長しますし、キャッシュで買い物をするにはATMで口座から現金を取得する必要がありますが、銀行にはATMの維持費用がかかりますし、消費者のほうも出金手数料などを負担しなければなりません。
このようにキャッシュには様々なコストがかかっています。例えば2013年にタフツ大学の研究者による研究では、米国社会はキャッシュの運用に毎年2,000億ドルのコストを負担しているとのことです。
デンマーク財務相も「キャッシュには多大な運用負荷や金銭的コストがかかる」と指摘しており、やはりこの点が今回のキャッシュレス化方針の一つの理由のようです。
キャッシュレス化の先頭を走っているデンマークでは、すでに国民の3分の1がスマートフォンアプリであるMobilePayでの決済/送金のユーザーとのこと。また、少額の買い物にも電子決済を用いることが定着しており、デンマーク財務省によると2014年の小売決済に占める現金決済は25%しかありませんでした。(日本よりもカード決済が浸透している米国でさえ40%です。)
とはいえ、電子決済には電子決済ならではの不正リスクなどの課題があります。世界に先んじてキャッシュレス化を進めるデンマーク政府、そこから得られる教訓を日本でも活かしていきたいものです。
参考情報
- 「Denmark proposes cash-free shops to cut retail costs」、ロイター通信2015年5月6日記事
- 「The government of Denmark wants people to stop using cash」、Fusion2015年5月7日記事