インフキュリオン独自の「決済動向調査2020」から今回は、キャッシュレス決済をさらに広める上で超えるべきギャップについて考察します。「日本人は現金が好きだからキャッシュレスが進まない」という単純な話ではありません。利用したくても利用できない、ポイントが貰えてもキャッシュレスは不便、そんな声が聞こえてきます。日本のキャッシュレス化をさらに進めるためには、このような消費者の声に真摯に向き合っていく必要があります。
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キャッシュレス決済を使いたくても使えない業種
まず、消費者が持っている「キャッシュレス決済の利用意思」についての調査結果です。消費者がお店や施設を利用するとき、キャッシュレス決済と現金のどちらで払いたいのか、15の業種について尋ねました。選択肢は「なるべくキャッシュレス決済で払いたい」と「なるべく現金で払いたい」の2択です。
業種ごとに尋ねるようにしたのは、人によっては「この業種では現金にしたいが、こちらの業種ではキャッシュレス決済したい」というような使い分けをしているかもしれないためです。案の定、業種によってキャッシュレス利用意思にばらつきがあるという結果が出ています。下の図に示します。
キャッシュレス決済に積極的な人は、どの業種においても50%以上。家電量販店、ガソリンスタンド、鉄道・地下鉄・バスでは70%を超えています。消費者のキャッシュレス決済利用意思が決して低くないことがわかります。
キャッシュレス化を進める上では、キャッシュレス決済を利用したいと思っている消費者が実際に利用できるようにしておくことが重要です。現金派の人の意識を変えるのは大変ですが、利用意思のある人は既にキャッシュレス派になっています。あとはキャッシュレス決済できる環境さえあれば、この層はキャッシュレス決済を利用してくれるはずです。
そこで次に、実際にはキャッシュレス決済と現金のどちらで払っているかを尋ねました。前の質問と組み合わせることで、キャッシュレス決済利用意思のある人が実際に利用できているかがわかるはずです。先ほどのグラフにデータを追加したものが下の図です。
キャッシュレス決済の利用意思と実際の利用のギャップが大きいものをグラフの右に寄せています。ギャップがより明確になるよう、ギャップを棒グラフで重ねたものが下の図です。
百貨店・ショッピングセンター、ガソリンスタンドでは、利用意思と実際のギャップはそれぞれ6ポイントと8ポイント。利用したい人はほぼ利用できていると言えます。キャッシュレス化の優等生業種です。
利用意思と実際のギャップが20ポイント未満の業種は多く、コンビニエンスストア、ドラッグストア・日用品、家電量販店・電器店、スーパー・食料品店、鉄道・地下鉄・バス、衣料品店・服飾雑貨店、書店・CDショップ、レストラン・喫茶店、ファストフードが当てはまります。キャッシュレス化はある程度進んでいるが、さらなる進展が望ましい業種と言えます。
そしてグラフの右には、ギャップが20ポイントを超えている業種。4業種あります。居酒屋・バー、処方薬局、タクシー、病院・クリニックです。キャッシュレス利用意思のある人の半数程度が、希望するほどには利用できていないことになります。
キャッシュレス決済を習慣化するには、いつでもどこでも利用できるような環境を整備していくことが重要。また、現金派の人にキャッシュレス派になってもらうためにも、「現金しか使えない」という場面をなくしていくことが必要です。紹介した調査結果からわかった、業種ごとのキャッシュレス化の進み具合。今後の進展に期待します。
現金派からみたキャッシュレス決済の課題
キャッシュレス決済の利用をさらに広めるためには、「利用していない人の、非利用理由」をよく理解する必要があります。
巷では「日本人は現金が好きだから」などとバッサリやられることがありますが、なぜ現金が好きなのでしょうか。また、キャッシュレス決済では様々なポイント施策の恩恵を受けられることは多くの人が知っています。「ポイントが貰えたとしても、キャッシュレス決済は利用しない」という現金派にも真摯に向き合う必要があると思います。
そこで「決済動向調査2020」では、「お金の管理のしやすさ」に注目し、キャッシュレス決済と現金ではどちらがお金を管理しやすいか、尋ねてみました。
対象者824人のうち、「キャッシュレス決済のほうが管理しやすい」と回答したのは47%。残り53%は「現金のほうが管理しやすい」と回答したのです。
いくらレジでの決済が速くて、ポイントが貰えても、お金の管理がしにくければ、キャッシュレス決済は使いたくない。そんな現金派の思いが聞こえてきます。
さらなるキャッシュレス化には、「キャッシュレス決済だとお金の管理がしにくい」という、生活者の課題に向き合うことが必要なのではないでしょうか。
「キャッシュレス決済のほうがお金を管理しやすい」と思ってもらうには、利用明細、つまり決済データの見せ方の工夫が必要です。単に取引を時系列で並べて見せるのではなく、生活者自身の振り返りをサポートするような見せ方。それは例えば米Apple社の「Apple Card」が既にやっていることですし、口座数が急激に増えている英国チャレンジャーバンクMonzoなども同様です。
参考記事:「バーチャルカードとしての「Apple Card」の斬新さ」、インフキュリオン・インサイト、2020年2月7日