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デジタル庁発足で高まる、行政DXへの期待 ~日本が進めるデジタル社会~

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が一般化され、多くの企業で様々な取組みがなされています。日本におけるDXは、2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を公表して以降、急速に普及したものであり、同ガイドラインでは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

しかし昨今、コロナ禍で人と人との接触を控えることが求められている中、DXは、企業だけでなく国や自治体においても取組みが必須となってきています。今回はその様な行政におけるDXの取組みについて、ご紹介させていただきます。

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行政DX推進の意義

諸外国と比較して日本は「デジタル化が遅れている」と言われています。国連による2020年の「電子政府ランキング」では、日本は前回(2018年)の10位から14位へと後退しており、他国が飛躍的に行政手続きのデジタル化やデジタルIDの導入を進めている中、ウェブサイト上の行政サービスの所在が分かり難い点や、役所による手続きの煩雑さなどが指摘されています。また直近では、コロナ禍における給付金交付の遅れや、感染者接触確認アプリの不具合、選挙でのオンライン投票未対応などでも、デジタル化の課題が多く見受けられました。

こうした中、行政におけるDXへの取組みとして、総務省は2020年12月に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を公表しました。当該計画にて、行政が担う役割として、まずは「行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用し、住民の利便性を向上させること」、および「デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていくこと」が掲げられています。つまり、行政サービスの内側と外側の両面のデジタル化を指しています。

外側のデジタル化は、行政サービスの利用者目線で分かり易い内容かと思います。行政手続きをオンライン化すれば、役所に足を運ぶ必要もなくなりますし、時間帯を気にせずに24時間365日いつでも申請することも可能となります。一方で、オンライン上で誰が見ても手続きがスムーズにできるよう、分かり易いUI・UXを整備したり、これまで実施してきた書類への押印や署名を廃止するなどの処置を講じる必要も出てきます。

行政DXの推進に向けては、利用者からの申請部分だけをデジタル化すればよいのではなく、行政による内側の変革も必要です。例えば、個人による給付金手続きを例にとって考えると、通常「申請」から始まり、「受付」、「審査」、「交付」、「支払」が主なプロセスとして想定されますが、このうち利用者からの「申請」部分だけをオンライン化すればよいのではなく、後続の行政側のプロセスについても改善することが必要となります。この点においては近年、各自治体にてAIやRPAを導入するなど、業務の効率化・自動化が図られてきています。

以降は、行政における具体的なDXの動きにつき、いくつか取り上げて見ていきたいと思います。

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デジタル庁の発足

2021年9月1日、「デジタル庁設置法」が施行され、同日付で「デジタル庁」が発足しました。同庁は、前菅政権における肝いり政策として設置され、その目的は、「デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ること」とされています。具体的には、行政手続きのオンライン化の促進や、行政システムの統一・標準化などを管轄しています。なお、行政のデジタル化については、単に手続きをオンライン化したり、システムを整備することを目的とするのではなく、利用者目線に立ち、如何に利用者中心のサービスを提供できるかを基本方針としています。

そのため例えばUIに係る機能など、民間に知見があると考えられるものについては、その知見を積極的に活用していくことを掲げており、その証左として、デジタル庁発足時の職員約600人のうち200人近くをIT企業などの民間から起用したとされています。兼業やリモートワークも認めるなど、行政機関においては特殊かつ柔軟な働き方を取り入れることで、優秀な人材を集めているようです。

まだ発足したばかりの機関ではありますが、デジタル庁には、旧態依然とした規制や慣例を打破することが求められており、今後の動きを期待したいと思います。

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マイナンバーカードの普及促進

デジタル庁の管轄に含まれ、政府が掲げるデジタル化の取組みの中で、今最も注力している事項は「マイナンバーカードの普及促進」です。直近では2021年10月より、マイナンバーカードの健康保険証としての利用が本格稼働したほか、2022年以降には一度の手続きで複数の金融機関の口座にマイナンバーを連携させる仕組みの導入も進められています。

では何故、政府はマイナンバーカードの普及に注力しているのでしょうか。マイナンバーを利用してできること、目指す姿について触れてみたいと思います。

そもそもマイナンバーは住民票を持つ日本国内の全住民に付番される番号であり、2016年より本格的に運用が始まっています。現在は、「社会保障」、「税」、「災害対策」分野への利用に限られていますが、将来的には幅広い行政サービスや官民連携での利用が検討されています。具体的には、事前に個人の口座を把握しておくことで、災害や感染症発生時に迅速に給付金を振り込んだり、個人口座とマイナンバーが紐づくことで、マネーロンダリング対策に活用したり、税務調査を効率的に行うなどが想定されます。この様に行政側としては、マイナンバーの利用が促進されることで、国民の情報を正確に把握することができる様になり、様々な行政サービスを効率的に行ったり、納税を始めとした各分野の管理がしやすくなるのです。

一方、マイナンバーカードの普及で個人にはどの様なメリットがあるのでしょうか。この点については、マイナンバーに関して個人が行う手続きのステップも踏まえ、見ていきたいと思います。

まず、マイナンバーに関連する個人の手続きとしては、現状、大きく以下の3つに分けられます。

(1)マイナンバーカードを取得(作成)する
(2)マイナンバーカードを健康保険証として利用するための手続きを行う
(3)マイナンバーと口座の紐づけを行う

このうち(1)のマイナンバーカードを取得することによる利用者メリットは、主に以下となります。

・カードを本人確認書類として利用できる
・各種証明書(住民票写し、課税証明書など)をコンビニで取得可能となる
・確定申告など一部の行政手続きにつき、オンライン申請が可能となる
・マイナポイントの進呈を受けられる(執筆時点では第2弾のポイント進呈につき、詳細は確定していませんが、(1)の実施者を対象に5,000円相当のポイントを進呈予定とされています)

上記に、(2)まで行うことで、以下のメリットの追加が想定されます。

・カードを健康保険証としても利用できる様になる(対応している医療機関・薬局のみ)
・医療費情報・薬剤情報などがオンラインで閲覧可能となる
・マイナポイントの進呈を受けられる(執筆時点では第2弾のポイント進呈につき、詳細は確定していませんが、(2)の実施者を対象に7,500円相当のポイントを進呈予定とされています)

最後に(3)まで行うことで、以下のメリットが増すことが想定されます。

・還付金や給付金の交付を受ける際、入金が迅速になる
・マイナポイントの進呈を受けられる(執筆時点では第2弾のポイント進呈につき、詳細は確定していませんが、(3)の実施者を対象に7,500円相当のポイントを進呈予定とされています)

この様に、行政側にも個人にもメリットのあるマイナンバー制度ですが、現状では、カードを取得している人の割合は4割程度であり、口座紐づけまでしている人でいうと数%とされています。「個人情報が漏洩することへの不安」、「口座情報がのぞかれるかもしれないという不信感」、「手続きの煩わしさ」など、普及を妨げる要因はいくつか考えられますが、行政にはこれらの懸念点を払拭し、国民にとってより便利で暮らしやすい社会を作っていくことが求められています。

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デジタル地域通貨の拡大

近年、「デジタル地域通貨」を発行する自治体が増えてきています。これまで紙で発行していたプレミアム商品券をデジタル化することで、コストを抑えた上でコロナにおける地域経済の刺激策として活かしたり、スマートフォンアプリを使って地域通貨を様々な取組みと連動させ地域コミュニティを強化するなど、「行政DX」の推進策の一環として注目を集めているのです。

本項では、デジタル地域通貨について、利用者としての個人目線、発行者としての自治体目線(地域通貨は、金融機関や商工会等が発行者となるケースもあります)で整理していきたいと思います。

まずは、利用者にとって地域通貨がデジタル化されることのメリットについてですが、従来の紙ベースと比較して、購入時に販売窓口までわざわざ買いに行く必要もなくスマートフォン1つで購入できる点や、紙媒体による現物管理も不要となり、紛失リスクも軽減される点が挙げられます。また、お釣りを気にせず1円単位で利用できるなど、デジタル化されることで、大きく「利便性」を享受することができる様になります。こういった利便性の向上によって、特に若年層の利用増加に繋がると想定されています。

一方で課題も残ります。デジタル化することで利便性が増すとは言え、そもそも地域通貨の発行目的は、「地域に限定した通過を発行し、域内の活性化を図ること」にあるため、原則対象加盟店は地域に限られ、決済機能だけで勝負してしまうと、多くの加盟店で決済可能な民間の大手決済事業者と比べて劣ってしまいます。

また、例えば高齢者の利用促進には大きな課題を抱えています。高齢者においては、スマートフォンを所有していないケースが大半で、持っていても使い慣れていない場合が一般的であるため、「紙媒体がよい」という声が多く聞かれます。こうした課題については、埼玉県深谷市の「ネギー」や、兵庫県尼崎市の「あま咲きコイン」の様に、スマートフォンアプリに加え、QRコードを付した専用カードも用意している事例もあり、高齢者も含め誰にでも使いやすい環境を整備し、対応を図っているケースも見受けます。

続いて、自治体側の目線で見ていきたいと思います。デジタル化における自治体のねらいについて、大きく「運営面」、「地域活性化への貢献」に分けて考察します。

「運営面」においては、従来の紙の地域通貨では、発行者の業務負荷・コストが大きくかかる割に利用拡大に繋がらないという課題がありました。デジタル化による最大の意義はこの点の解消にあり、デジタル化することで、紙の印刷や現物管理の手間やコストの削減に繋がるだけでなく、加盟店管理や精算面においてもシステムで一元管理することができるようになるため、大幅に業務負荷を減らすことができるのです。また紙媒体の場合、一度使用するとそれで終わってしまいますが、デジタル地域通貨であれば、繰り返しチャージして使用することもできるため、持続可能なモデルであることも大きなメリットと言えるでしょう。

「地域活性化への貢献面」においては、「町おこし」や「参加型体験」などをスマートフォンアプリと連動させて、うまく活用するケースが増えてきています。

神奈川県鎌倉市や厚木市では、地域通貨発行システム「まちのコイン」を活用して地域通貨を発行しており、例えばゴミ拾いなどのボランティア活動への参加や、エコバッグの使用などのSDGsへの貢献でポイントがもらえるといったユニークな取組みを行っています。ここでは、コインを獲得する活動にせよ、使う体験にせよ、その都度コミュニケーションが生じるため、地域通貨発行の取組みが、地域コミュニティ強化に一役買っているという訳です。なお、この様な地域活性化への貢献に向けた独自の取組みは、前述で課題として挙げた大手事業者への対抗手段にもなり、地域通貨の利用促進における新たな切り口と考えられます。

デジタル地域通貨の普及には多くの課題もありますが、一過性の取組みで終わらせず浸透させていくため、住民の声に寄り添い、更なる工夫が必要となるのでしょう。

参照情報:

企業においても行政においてもDXは避けては通れない時代です。今後もますます加速していく行政の取組みにつき、引き続き注目して参りたいと思います。