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2020年フィンテックを見通す10のキーワード

2020年・令和2年もインフキュリオン・インサイトをよろしくお願いいたします!日本経済の一大論点ともなったフィンテック。2020年はどのように動いていくのか、10のキーワードで展望したいと思います。

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現金の不便化

私たちはフィンテックを、「スマートフォンやクラウドなどのテクノロジーによる個人や企業の行動変化を取り込んで金融サービスを再構成する取り組み」と捉えています。そこで必要なのは、現金や書類のやり取りで行われてきた様々な取引を電子化・ペーパーレス化していくこと。モバイル端末でのサービス提供や電子化したデータの蓄積はフィンテックの成功と発展には必須です。

しかしフィンテックのハードルとして頻繁に挙げられてきたのが、日本の現金の便利さ。その要因の一つに、銀行店舗だけでなく駅や商業施設、コンビニなど消費者の生活導線のあちらこちらに設置されたATM網があります。どこでも簡単に現金が手に入るのが当たり前という社会では、「必要な分の現金だけを持ち歩き、減ってきたら不足分だけをこまめに補充」、というお金の管理も可能。キャッシュレス決済に強い必要性を感じないという「現金派」の消費者が多数派というのも不思議はないのかもしれません。

実際、ある国の現金利用は金融機関店舗網の密度と相関関係にあることがわかっています。具体的には、各国のGDPにおける現金流通高の割合と可住面積あたりの金融機関店舗数をプロットすると、両者には正の相関関係が見られるのです。ここで日本は、国際的にも現金利用と金融機関店舗の密度がトップクラスの国となっています。(出典:「決済システムレポート」、日本銀行、2019年3月)

密度の高い支店網・ATM網が日本の現金生活を支えてきたと言えますが、そんな高密度の「現金インフラ」の限界は近いようです。

銀行が1台のATMを維持するには年間1,000万円かかると言われています。人口減少・低金利・ライフスタイル多様化など様々な要因で厳しさを増す事業環境の中、日本の金融機関は支店やATMの統廃合に乗り出しています。消費者にとってはメインバンクのATM利用機会が減少していくことになります。

メインバンクのATMが使えなくとも、消費者はコンビニATMなど他行のATMを使うことはできます。実際、自行ATMを減らす中で、消費者には他行ATMの利用を促すという銀行も多くありました。が、こちらも異変が起きています。消費者が他行ATMを利用すると、口座を持つ銀行はATM保有銀行に手数料を払うことになっています。コンビニなどの他行ATM利用が増えるほどその手数料負担が増えるのです。それに耐え切れず、消費者に課す他行ATM利用手数料を上げる動きが広がっています。

支店・ATMの統廃合と同時に、コンビニATMを含む他行ATMの利用手数料は上がる。消費者から見るとATMが利用しにくくなり、それは現金が不便になることを意味します。そしてこの「現金不便化」のトレンドは今後も加速していくと見られます。

現金利用を支えてきた支店・ATMという「現金インフラ」が弱体化する中で、より大きな役割を果たしていくのがキャッシュレス決済です。実は消費者によるATM利用は既に減少傾向にあったのですが、これは近年のキャッシュレス決済の広がりが要因の一つであると思われます(ATM利用の減少傾向については、ゆうちょ財団の調査研究報告書を参照)。

「現金が不便化」が「生活の不便化」になってしまうのを防ぐためにも、キャッシュレス決済サービスとフィンテックをもっと便利に、もっと身近にしていくことが求められます。2020年はそういった問題意識が広く共有されていく年となりそうです。

スーパーアプリとBaaS

「スーパーアプリ」という、わかるようなわからないような用語に筆者が初めて出会ったのは2016年。中国のQRコード決済サービスとして有名な「Alipay」が、自身を「グローバル・ライフスタイル・スーパーアプリ」と位置付けているのを知ったのです(こちらが筆者が観た紹介動画)。ECサイトのエスクローとして始まった「Alipay」が、リアルでも使える汎用決済サービスとなり、送金から融資や資産運用などの金融サービス、さらには公共料金支払いから旅行やレジャー、個人信用スコアまでをカバーする幅広い機能の提供チャネルとして拡大を続けていることを知るにつれ、確かに「スーパーアプリ」であると納得したものです。

「中国を一気にキャッシュレス化した2大QRコード決済サービスの一つ」として日本でも有名な「Alipay」ですが、そのスーパーアプリとしての側面が日本で知られるようになってきたのは2019年半ば以降。特に、それぞれ「PayPay」と「LINE Pay」を展開するZホールディングスとLINEの経営統合が発表されたあたりから、大手決済サービス事業者の目指すべき方向性としてスーパーアプリ路線が脚光を浴び始めたように思います。広く普及し華々しいイメージの決済サービスでもその実態は薄利な手数料ビジネス。大きな収益を手にするにはユーザーの日常生活における接点を増やし、決済以外のマネタイズポイントを手に入れていく路線が魅力的ですが、これこそがスーパーアプリ路線そのものです。

「Alipay」規模のスーパーアプリは多くありませんが、ほかに参考にあるのが東南アジア各国に展開している「Grab」。タクシーの配車から始まり、一般の運転者の運転する自動車の配車やデリバリー、配達サービスなどモビリティを起点にサービスを拡大していますが、これなどはまさにモビリティ領域のスーパーアプリ。実際、「Grab」の売り文句は「Your Everyday Everything App(あなたの毎日なんでもアプリ)」で、こちらもユーザーの日常生活の様々な場面で利用されるアプリを目指していることが明確です。

「Grab」の事例で注目すべきは、配車という決済とは離れた領域で事業を始めた同アプリも、早々に独自のプリペイド決済機能の提供を開始していたこと。このように、サービスラインナップを拡大しスーパーアプリ化を狙う事業者にとって、決済サービスは不可欠。なぜならば、いくらサービスラインナップが豊富でも、サービス利用における決済シーンでいったんアプリを離れたユーザーはそのまま戻ってこないことが多いからです。生活時間における利用シェアを増やしたいならば、同一アプリ内(または同一アプリの経済圏内)で決済まで完了させる導線が必須なのです。

とはいえ、日本を含め多くの国では「お金を預かり、それで決済・送金する」という金融サービスは規制産業。事業会社による自前の決済サービス提供には高いハードルがあります。

そこで注目を浴びているのが「Banking-as-a-Service」という金融サービス形態。その略称である「BaaS(バース)」でよく知られています。従来は金融機関が自社顧客に対して自社チャネルでのみ提供していた残高管理や決済・送金、融資といった金融サービスを、提携先事業会社のサービスに組み込んでしまうという形態です。

こう書くと難しいようですが、先ほどの「Grab」のタイにおける決済機能「Grab Pay Wallet」は、タイの大手であるカシコン銀行との提携により、BaaS形式で実現されています。具体的には、「Grab Pay Wallet」はカシコン銀行の決済サービス「K PLUS」によって実現されており、「Grab Pay Wallet」における残高は実際にはカシコン銀行が管理する口座に入っているのです。(参考:https://kasikornbank.com/th/promotion/Pages/grabpaywallet.aspx)。

日本ではBaaS自体がまだ新しいコンセプトですが、実際には既にBaaS的な形態を持つサービスは存在しています。筆者のイチ押しの事例は「建設現場と職人をつなぐアプリ」である「助太刀」。建設の仕事の受発注や職人の募集、応援人員の募集など建設に従事するユーザ向けの機能が豊富で、「建設業界のスーパーアプリ」と呼べるかもしれません。注目すべきは、工事代金の即日受取を「助太刀カード」への入金として実現する「助太刀Pay」という機能。実はこれはクレディセゾンが発行するプリペイドカードとの連携で実現されているのです。銀行ではありませんが、日本ならではの「カード会社提携型のBaaS」と呼ぶことも可能です。

銀行業界もBaaS形態でのサービス提供に取り組む事業者が出てきています。例えば新生銀行が2019年5月に発表した「ネオバンクプラットフォーム」。用語は異なりますが、その方向性は本稿でのBaaSそのものです。

膨大な数のスマートフォンアプリが存在する現代、用途別に単機能アプリを選んで使い分けることには限界もあります。ある分野で必要となる機能を丸ごと提供するというスーパーアプリはユーザーにとってもメリットがありますが、決済までカバーするとなると銀行や決済事業者との提携はほぼ必須。スーパーアプリ戦略に関心が集まっている2020年は、スーパーアプリを支えるBaaSにとっても始まりの年と言えそうです。

コード決済の合従連衡

QRコード又は一次元バーコードの提示とスキャンで決済を行う「コード決済」。2018年までに始まっていた「LINE Pay」、「楽天ペイ」、「d払い」、「PayPay」に加え、さらに2019年には「メルペイ」、「auPAY」、「ファミペイ」も参入を果たし、2019年は日本のコード決済元年となりました。コード決済戦国時代の緒戦は「PayPay」が圧倒しましたが、まだまだ乱戦は続きます。

携帯キャリアやECなど、巨大なユーザー基盤を持った事業者が個人戦を繰り広げていた感のあったコード決済市場ですが、早くも合従連衡を通した団体戦へと市場構造が変わってきています。最大の動きは言わずと知れたZホールディングスとLINEの経営統合。2019年11月の発表以来、まだ「PayPay」と「LINE Pay」という2トップがどのように位置づけられるのか未知ですが、その方向性はおいおい明らかになっていくでしょう。両サービスが並列で存続している間も、加盟店が相互開放されるだけでも大きなインパクトがありそうです。

注目したいのは、2019年12月に発表のあったKDDI・三菱商事・ローソン・ロイヤリティマーケティングの提携です。「auウォレットポイント」を「Ponta」に統合、pontaアプリへの「auPAY」機能を搭載、「au WALLET」 アプリに「デジタルPontaカード」機能搭載、といった取り組みが発表されました。コード決済の中では後発である「auPAY」ですが、プリペイドカード分野での「auWALLET」の存在感は際立っています。当社が毎年実施している「決済動向調査」においても、国際ブランドロゴの入ったプリペイドカードとして「auWALLETプリペイドカード」は2位に大差を付けて1位独走。汎用決済サービスに強みを持つKDDIと、コンビニを中心とする経済圏を持った「Ponta」の連携は、まさにコード決済の団体戦の到来を感じさせます。

コード決済の戦線拡大を印象付けるのは、QRコード自動改札。3月に開業する高輪ゲートウェイ駅に導入するとJR東日本が発表しました。交通分野での利用が決済サービスの利用拡大の起爆剤となりうることは、「Suica」の成功や英国の「Apple Pay」の事例にも見て取れます。自動改札でのQRコード利用は国内でも沖縄のゆいレールが導入済ですが、利用客の多い都市部の駅での事例は初めて。通勤客の多い改札でもQRコードがうまく機能することが確認できれば、コード決済ひいてはキャッシュレス決済に新たな局面が訪れそうです。

「賢い支出」のサポート

キャッシュレス決済が着実に広がっている日本ですが、キャッシュレス化で電子化された決済データの活用はまだまだ進んでいるとは言えません。AIによる分析で価値ある示唆を導き出す、というのは言うは易しで、投資に見合う効果を出せるかどうかは難しい面があります。

そこまで難易度は高くはなく、一定の効果が期待できる分野は「決済データを加工し、支出の振り返りがしやすいような形式でユーザー本人に還元し、ユーザー本人の「賢い支出」をサポートすること」です。現金決済ではそのまま消失してしまう決済履歴は、キャッシュレス決済ではしっかり残ります。Web明細などで今でも閲覧可能ですが、そのような貧弱なUIではデータの潜在価値を引き出せません。

2019年に米国で登場した「Apple Card」は「賢い支出」のサポートとはどういうことか大変参考になります。「Apple Card」は、ゴールドマン・サックス銀行を発行会社とする提携カード。「Card」と言ってもApple Payでの利用をメインとするバーチャルカード。物理カードは「Apple Payが使えないところで使うもの」という予備カード的な位置づけになっています。

そんな「Apple Card」ですから、カードアプリが一番のユーザーチャネル。その見せ方はAppleらしい超一流です。アプリのメイン画面には、利用金額と次回の支払い日、週次の利用履歴(月次に切り替え可能)のまとめと直近の決済履歴が表示されます。メイン画面を一目見れば自分の最近の支出動向がわかり、次の支払いまでどのように消費行動すべきかイメージすることができます。特に週次/月次の利用履歴は、日々の決済総額が棒グラフで示され、どういう分野で決済したのかは色のグラデーションで示されます。(分野とは、加盟店の業種と思われます。)

提携カードである「Apple Card」ですので、従来形式の明細はイシュアが保有しているはずです。それをそのまま表示するのではなく、ユーザーにとって有益な形式に加工して見せているのが、ユーザー視点を重視するAppleらしいところです。

決済データを加工し、支出の振り返りがしやすいような形式でユーザー本人に還元する、というのは一見単純ですが、カード利用促進やメイン化推進における武器となりえます。経済産業省の「キャッシュレス検討会」においてマネーフォワードが提出した資料にその根拠があります。カード決済のライトユーザーがマネーフォワードの利用を開始すると、カード利用が増大する、というデータです。家計簿アプリを利用しようがしまいが、ポイント還元等に変化はありません。家計簿アプリに登録するとカード利用が増えるというのは、一見すると不思議ですが、家計簿アプリ利用の動機を考えれば腑に落ちます。

家計簿アプリを利用開始するユーザーは、自分の支出を把握し今後の行動に繋げたいという欲求があります。使い始めて便利だと感じるならば、家計簿アプリにデータを集約するほうがもっと便利です。現金決済してしまうとデータは失われるが、カード決済すれば家計簿アプリで把握できる。ならば現金利用は極力避けてカード利用を増やそう、というのは合理的です。つまり、決済履歴をユーザー本人に還元することは、さらなる決済利用の促進に繋がるということです。実際、「Apple Card」のアプリ画面や紹介動画を観るだけでも「これを一度使うと、他社カードを使う気が失せるだろうな」という思いが起こります。

米国の「Apple Card」だけでなく、英国のStarling BankMonzoといったチャレンジャーバンク、米Wells Fargo銀のデジタルバンキングサービス「Greenhouse」なども、「賢い支出」のサポートをユーザーへの訴求ポイントとして重要視しています。国内では「賢い支出」のサポートは家計簿アプリの独壇場という印象で、銀行や決済事業者にはまだそのような動きは見えません。しかし決済サービス利用促進がポイント還元一辺倒では苦しい消耗戦を続けることになります。海外のトレンドを見ていると、国内でも「賢い支出」のサポートが競争の新機軸となっていくと考えます。

マイナポイント

2019年は消費増税と連動して始動した「キャッシュレス・消費者還元事業」は、キャッシュレス決済利用の大きな推進力となりました。増税を挟んだ数か月間でキャッシュレス決済サービスのユーザーは大幅に増え、利用回数も増大するなど、日本のキャッシュレス決済とフィンテックの進化に大きなインパクトを与えましたが、これは2020年6月末までの期間限定の取り組み。還元事業が終わるとキャッシュレス推進が失速するのではと心配する見方もありました。

そこで登場したのが、2020年9月から始まる「マイナポイント」。政府によるキャッシュレス推進の次の一手ということで、キャッシュレス推進の関係者の期待と注目が集まっています。20年度予算案では「マイナポイント」のポイント原資は2,000億円。途方もない規模です。2021年3月まで続きます。

「マイナポイント」の特徴は、キャッシュレス決済のうちプリペイド型サービスを対象にしていること、そしてマイナンバーカードとマイキーIDの保有が前提であること。マイナンバーカード保有者でマイキーID保有している人がプリペイド型サービスを一つ選び、入金または決済利用すると金額の25%相当のマイナポイントが付与されます(上限5000ポイント)。1ポイントは1円として利用できます。例えば2万円を入金すると5,000円が上乗せされるイメージで、これはかなりインパクトがありそうです。

キャッシュレス推進にも大きな効果がありそうな「マイナポイント」ですが、フィンテック観点からも「マイナポイント」によるマイナンバーカード普及推進は重要です。インフキュリオン・インサイトでも何度か取り上げているように、マイナンバー制度には、公的個人認証のための電子署名が2種類搭載されていたり、マイナンバーに対応したウェブ上のIDであるマイキーIDを設定できたり、といったような、電子的に活用可能な国民IDとしての機能が盛り込まれています。

デジタル時代に対応するIDカードとして様々な考慮がされたマイナンバーカードですが、民間での利用シーンはあまりなく、残念ながら「国民IDカード」と言えるほど普及しているとは言えません。総務省によると、2019年11月時点での交付枚数は約1,800万枚、人口に対する交付枚数率は14.3%に留まっています。政府はマイナンバーカード普及を目指し、保険証との一体化などの施策を打ってきており、「マイナポイント」もその文脈に位置付けられています。

いずれにせよ、国民IDとしてのマイナンバーカードやマイキーIDの普及は、フィンテックにとってもプラスとなることは確実。事業の成功を願っています。

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上がる手数料、下がる手数料

これはフィンテックの事業環境を大きく変えてしまう可能性を持った動きです。「上がる手数料」とは、銀行の口座利用者が負担する手数料のこと。2020年は引き上げの年となります。「下がる手数料」とは、証券口座の利用者が負担してきた手数料。株式や投資信託の取引に関連した手数料が、ネット証券を中心に撤廃されていっています。

まずは銀行口座。日本では銀行口座はタダが当たり前でしたが、これは世界的にはかなり特殊な状況でした。諸外国では口座保有には手数料が付き物で、口座を持っているだけで数百円から数千円の費用がかかっています。リテールバンキングの重要な収益源となっていますが、日本の金融機関にはこの収益がゼロでした。

経済成長の局面では、融資という銀行の本業が伸びていましたので、融資の原資獲得という観点でも預金獲得は優先すべき事項でした。口座維持手数料など設けようものなら、消費者の余剰資金は他行に移ってしまいます。そういう論理で、口座維持手数料ゼロが日本では当たり前となっていました。

現在の状況は大きく変化しています。融資が伸びない環境では、コストをかけてまで預金を獲得する意義は薄れてしまっています。収益性の低いリテールバンキングを維持していくためにも、コストの一部を利用者にも負担してもらいたいという考え方です。

最近の最大のニュースは、三菱UFJ銀行の不稼働口座への手数料導入の検討。不稼働口座への手数料自体は、りそな銀行や埼玉りそな銀行で2004年に導入済でしたが、メガバンクが検討に入ったということで追随する金融機関が現れても不思議はありません。ほかにもATM利用の手数料や振込手数料の増額や優遇の見直しなど、口座利用の手数料は上がっていく見通しです。

「上がる手数料」はフィンテックには追い風。デジタルネイティブ、クラウドファーストが特徴のフィンテックスタートアップは、利用者からの手数料以外のマネタイズポイントを持っていたりと、低コストでのサービス提供を強みとしています。しかし銀行口座がタダで使えるという環境では、低コスト体質をユーザーへの訴求ポイントに変えることは簡単ではありませんでした。

銀行口座の利用にコストがかかるとなれば、ユーザーによる金融サービスの選別における観点が増えることになります。あえて言うならば「銀行口座の不便化」が始まります。フィンテックサービスが土俵に上がれるチャンスは確実に増えるでしょう。

証券分野では逆に、「手数料ゼロ化」の大波が来ています。もともと低コスト体質のネット証券を中心とする動きですが、それでも従来の収益減を自ら断っていく消耗戦。収益構造の転換が急務となっています。ネットではない対面型証券会社は今のところ様子見ですが、ユーザーの離反が目に付くようになれば動かざるをえません。証券系のフィンテックの事業環境にも大きく影響しそうですが、そのインパクトは今後明らかになってゆくでしょう。

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中銀デジタル通貨

フィンテックとキャッシュレスは切っても切れない仲。キャッシュレス化は進行していますが、それでもキャッシュは依然として経済の大きな領域を占めています。それでは、「お金」を大本からデジタル化してしまうとどうなるのでしょうか?これはビットコインが注目を浴びた数年前からフィンテック界隈、特に中央銀行やアカデミアで活発に議論されてきているトピックです。2020年はついに、「お金」の発行母体である中央銀行による通貨のデジタル化の取り組みが現実化し、日本国内の議論にも大きな影響を与えそうです。

まずはスウェーデン。本サイトでも何度か取り上げたとおり、キャッシュレス先進国として有名な国です。国民生活の大部分がキャッシュレスなのであれば、そもそもの通貨をデジタル化してしまってはどうか、と考えるのはうなずけます。検討していたデジタル通貨「eクローナ」の実証実験が2020年に予定されています。実証による検証を経て、デジタル通貨発行の是非を検討するという流れです。

中国にも動きがあります。「デジタル人民元」という報道があり強烈な印象がありましたが、一般市民の間で流通するデジタル通貨がすぐに出現するわけではありません。どこの国でも、銀行は中央銀行に口座を開設しており、その口座を介して銀行間送金を行ったり通貨政策を実施したりしているわけですが、中国の場合はここにブロックチェーン型技術を適用しようという試みです。中央銀行と銀行の間でデジタル通貨が流通し、銀行を経由してそれが一般市民にも行き渡る、という構図と言われます。中国は国家としてもブロックチェーンと分散台帳技術に注力しており、自らもそれを国家運営で活用しようという姿勢のようです。

通貨のデジタル化では2020年には各国で具体的な動きがあります。日本のわたしたちへの直接的な影響は少し先になりそうです。

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ペイロール

payrollとは「(給与を支払うべき)従業員のリスト」が本来の意味ですが、最近の日本では「給与支払い行為」を意味する用語として認知されているようです。「2019年フィンテックの8大キーワード」でも「お給料のもらい方が変わる?!」として取り上げたとおり、給与支払いに銀行振込以外の手法を認めようという動きです。厚生労働省と内閣府の主導で検討が進められている模様ですが、制度整備は当初の想定より遅れているようです。

銀行口座以外にもキャッシュレス決済サービスの口座は様々ですので、「給与の入金先として、銀行口座だけでなくキャッシュレス決済サービスの口座も認めたらよいのでは?」と一般には思われがちですが、給与の入金は労働者の生活の糧。事業者の破綻やシステムトラブルで入金が遅れたり入金されなかったりといった事態を避けるため慎重な考慮が必要です。

特に論点となっているのは、給与を無料で一回は引き出す手段が確保されること、そして万一の場合でも労働者が速やかに給与を手にすることができること。

給与の新たな受け皿として想定されるのは資金決済法上の「資金移動業者」が運営する口座ですが、こちらの制度は通常の送金を想定した制度であるため給与送金には上記の点などが不足しているとの見方です。給与支払いの安全性確保と、新サービス創生のバランスを考慮した制度設計に時間がかかっている模様です。

様々な議論があるペイロールですが、2019年12月には内閣府の規制改革推進会議の投資等ワーキンググループにおいても議論され、Fintech協会など民間団体からも顧客利便性の向上の観点から実現に向けた要望が出ています。2020年には具体化に向けた動きが加速しそうです。

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オリンピック

東京オリンピック/パラリンピック開催の年となりました。フィンテック推進に携わってきた我々インフキュリオンにとっても感慨深い年です。政府によるキャッシュレス推進が「日本再興戦略」に盛り込まれたのは2014年、東京開催を機に訪れる外国人客の利便性向上が主目的でした。日本のキャッシュレス化とフィンテックにとって東京開催決定は重要な節目だったのです。

特にカード決済分野では、東京開催までに世界標準であるICクレジットカード取引への移行を目指して政府・業界が協力して推進してきました。クレジットカード取引を規制する割賦販売法の改正時には、IC化対応も盛り込まれました。

当時はカード決済時には磁気ストライプ読み取り&署名が一般でしたが、今ではもうICチップ読み取り&暗証番号入力(業界用語では「チップ&PIN」)が主流。隔世の感です。大手加盟店のカード決済IC化対応もあらかた完了(または2020年前半には完了)しています。

東京開催に向けて進めてきたカード決済環境整備。「現金しか使えない国」という海外での不名誉な評判を、東京開催を機に打ち払うことができるのか、大注目です。

ネオバンク法制度

「ネオバンク」とは、銀行免許を待たずに決済・融資などの銀行サービスの一部を提供する事業会社のこと。海外送金のTransferwise、後払い決済のAffirmなどフィンテック企業を「ネオバンク」と呼ぶこともあります。

ネオバンクの位置づけは各国の金融法制度によって大きく異なります。日本においては、銀行のみに許されている預金・為替・融資を、資金決済法や貸金業法によって銀行以外の企業に開放しており、それを根拠にプリペイドサービス(具体的には「前払式支払手段」と「資金移動業」)やノンバンク貸金事業者が事業を運営しているという構図になっています。ネオバンクは金融サービス利用を活性化し、経済を活性化させる存在という認識がその背景にあります。

2019年はネオバンクのさらなる成長を念頭に置いた法制度環境整備の議論が進められてきました。それは2020年通常国会に提出される法案に反映される見込みです。割賦販売法制・決済法制・仲介法制という3つの動きがあります。ネオバンクによる金融活性化の基盤となるネオバンク法制度の動向には注目です。

割賦販売法制

非クレジットカード型の後払いの成長を受け、「少額包括信用購入あっせん業者(仮称)」が新設される見込みです。極度額10万円以下の後払い・リボ払いサービスを想定しています。現行法制では規制のない、主にEC領域で拡大している後払いサービスが対象となる見込みです。

多重債務リスクの抑止を目的とする信用調査のあり方が大きな論点となっていましたが、指定信用情報機関であるシー・アイ・シーも運用・システムを改善する方向を打ち出したことで、バランスの取れた制度になりそうです。

決済法制

金融審議会での検討を反映し、資金決済法を根拠とする「資金移動業」が見直される見込みです。現行法制では資金移動の限度額は100万円と一律ですが、資金移動可能額によって新たに3つの類型を導入する方針です。第一類型では100万円を超える資金移動が可能、第二類型は100万円まで、第三類型は数万円以下の少額の資金移動のみ認められます。

現行制度では大多数の資金移動が数万円以下であること、逆に上限100万円では海外への仕送りや法人間取引といったニーズに対応できないことが考慮されました。利便性とリスクのバランスに配慮した見直しとなっています。

仲介法制

フィンテックサービスには、自前で金融サービスを運営するのではなく、消費者と金融事業者の間に入って両者を「仲介」する形態も考えられます。現行法制でも可能ですが、仲介しようとする分野ごとに複数の登録等が必要であったり、特定の金融機関に「所属」してその指導に対応する必要があったりと、現実的には負担の大きい制度となっていました。

金融審議会では、イノベーション促進の観点から議論が行われ、複数の金融機関を横断し多様な商品・サービスを仲介できる新制度が創設される見込みとなっています。

参考情報: