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銀行主導のフィンテック・イノベーション

世界的な潮流となったFinTech。テクノロジーの高度活用で、金融サービスを身近で使いやすいものにする取り組みです。ベンチャー起業家による事業立ち上げが話題になることが多いですが、銀行主導で生れ大きく育つFinTechもあります。今回はノルウェーからそんな事例を紹介しようと思います。

DNB銀行のVipps

ノルウェーの銀行であるDNB。同国で最も長い歴史を持つ、伝統ある銀行です。そんな伝統あるDNBですが、テクノロジー活用にも貪欲。サービスチャネルのITシフトも鮮明で、同行のモバイルバンキング取引は2013年から4倍に増えています。同時期に、同行の店舗数は156から57と大幅に減少しているそうです。

そのDNBが2015年5月に立ち上げたのが、個人間(PtoP)送金サービスのVippsです。同行がFinTechを検討する際に最も重要視するのは、UXのシンプルさ。Vippsもそのシンプルさが支持され、現在のユーザ数は260万人。ノルウェーの人口は525万人なので、既に人口の半数以上が利用しています。15才以上人口では61%、30才未満人口では80%が利用しており、最近では50代・60代のユーザ増が顕著とのことです。

Vippsの送金機能は無料ですが、2016年中頃にリリースしたVippsの決済機能は、DNBに収益をもたらしています。このように、個人間送金でユーザを獲得し、店舗決済の加盟店手数料でマネタイズする、という戦略も、送金系FinTechの王道です。Vipps加盟店は4万5000以上、企業が新たにVipps決済に加盟すると、取引の2割から3割がすぐにVipps化するとも言われるほどの浸透ぶりです。

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銀行連合によるフィンテック推進体制

Vippsの大成功を受けて、2017年9月、DNBはその運営方針を転換します。同行からVippsをスピンアウトさせ、さらに他行にも広く声をかけました。Vippsの株式はDNBが52%を保有しますが、残りはノルウェーの105の銀行が保有するに至っています。また、Vippsアプリはノルウェーの銀行128社のうち109社が配布しており、まさにノルウェーの銀行連合による推進体制となっています。

DNBがVippsの推進を銀行連合体制に移行させた理由は、Vippsを核とするFinTechサービスで他国市場に進出していく基盤固めです。ノルウェー一国では市場が小さいため、規模を追求するには越境が不可欠、そしてそのためには、国内の銀行同士で争っている場合ではない、ということです。実際、Vippsの「共有化」と同時に、Vippsと競合していた2つの銀行主導型の送金サービスは停止となり、まさに他国展開に向けた共闘体制が生れています。

さらに、ノルウェー産FinTech強化施策として、Vippsは同じくノルウェー発のBankID、そしてBankAxeptとの合併も予定しています。BankIDは350万人を対象としたデジタルIDサービス、BankAxeptは12万5千の加盟店を持つデビット決済サービスです。

スタートアップだけがFinTechではない

スタートアップ企業の活動が目立つFinTechですが、今回紹介したノルウェーの事例のように、銀行自らが、自国市場を越えて金融をディスラプトさせていく活動に取り組む例もあります。

日本でも、MUFGのジャパン・デジタル・デザインや、みずほ銀行のBlue Labなど、メガバンクが自ら新会社でFinTechに取り組む流れが生れています。また、SBIホールディングス・SBI Ripple Asiaを事務局とし多数の銀行が加盟している「内外為替一元化コンソーシアム」の取り組みも、金融機関が自ら金融をディスラプトしようとする取り組みと言えるでしょう。

多様なプレイヤーが競争することで、ますますFinTechの進化が加速し、よりよい金融サービスが人々に行き渡ることを期待します。

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