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オープンAPIを銀行の強みに -海外フィンテック事例-

銀行によるAPI公開を盛り込んだ銀行法改正案が3月3日に国会に提出され、Fintechと銀行のAPI連携を通して生まれる新たな金融サービスの可能性への関心が高まっています。

日本の法改正は欧州で先行しているPSD2なども参考にしており、考え方において共通するところも多くあります(相違点ももちろんあります)。また、銀行API制度導入を見据え、全銀協ではオープンAPIのあり方の検討が進められています。

これらの動きについては以下のインサイト記事も参照ください:

API自体はITの世界では古くからあるものですが、金融業界で脚光を浴び始めたのはごく最近のこと。法改正も進められており、銀行にとっては「API開放待ったなし」という状況ですが、API連携によってどのように金融サービスが変わるのか、そのイメージを持つことが難しいと感じる業界人もたくさんいそうです。

そこで参考になるのが欧州。上で挙げたインサイト記事でも紹介したとおり、欧州ではPSD2の各国における法制化の期限が2018年1月で、まさに銀行オープンAPI化が目前に迫ってきています。その状況を受け、Fintech業界では有名なイベントであるFinovateEuropeにおいて、PSD2制度下でのFintechサービスの具体例を示すデモが登場し、その動画が公開されています。

今回はそのデモ動画をベースに、銀行オープンAPI時代のFintechサービスのイメージを考察しようと思います。

オープンAPI導入に関する銀行法改正については、以下のサイトの「国会提出法案(第193回国会)」が詳しいです:

銀行向けAPIプラットフォームのToken

今回紹介するサービスはFinovateEuropeに登壇したToken社のものです。

以下のURLでTokenのデモの動画を視聴できます:

FinovateEuropeは毎年2月に英国ロンドンで開催されるイベントで、2017年は2月7日・8日の日程でした。Finovateはピッチイベントであり、登壇企業は7分間のデモで自社サービスを売り込みます。プレゼン資料は使用禁止なので、参加者にとっては生のUXを知ることができる貴重な機会となっています。Finovateでのデモは全て動画として公開されているのもありがたいポイントです。

PSD2前夜とも言えるタイミングでのFinovateEuropeですので、PSD2をキーワードとして挙げている企業が複数ありました。

Tokenは米国サンフランシスコを拠点とするテクノロジー企業で、英国ロンドンにもオフィスを持っています。Finovateへは過去にも登壇したことがありますが、今回はPSD2対応のための銀行向けプラットフォームのピッチで登壇しています。

同社のサイト(https://token.io/)を開くと目に飛び込んでくる「Capitalize on PSD2」の文言。「PSD2を強みに変えろ」ということで、制度改正によって顧客口座の情報を開示しなければならなくなった銀行に対して、PSD2をむしろ新たな収益ポイントに変えていこうというのが同社のスタンスとなっています。

PSD2において、顧客口座へのAPIアクセスを開放しなければならない欧州の銀行。システム投資が大変なだけでなく、虎の子の顧客情報をPISP(Payment Initiation Service Provider; 決済指示サービス提供者)やAISP(Account Information Service Provider; 口座情報サービス提供者)といったFintech事業者に開放しなければなりません。

各銀行はまずAPIを実装しなければなりませんが、Tokenはそこを効率化すると謳っています。Fintech業界では有名なFidorと既に戦略提携しており、Fidorとのシステム連携は10日間で完了したとか。銀行はTokenと提携することで、自前でAPIを構築することなく、外部からのアクセス要求への対応をTokenに任せることができるとのことです。

これだけだとAPIシステムの構築を受託するITベンダーと同じように思えますが、大きな相違点はTokenのサービス自体が消費者にも見えており、Token自体がAISP・PISP的な性格を持っていることです。単なるプラットフォームベンダーではなく、サービス提供者でもあるということですね。

それではデモ動画の説明です。登壇者はTokenのマーケティング責任者と、FidorのAPI&オープンプラットフォームの責任者です。以下、動画のポイントを説明します。

  • (2:00ごろ)デモ画面が出てきます。左側がTokenのiOSアプリ画面、右側はFinVertexというPFMの画面です。FinVertexはしばらく使わず、まずはTokenへのログインと口座登録をします。
  • (2:19ごろ)Tokenにログインしました。Fidor銀行とIron Bank(架空の銀行)がリストアップされており、これらの銀行の口座の登録を促します。
  • (2:22)Fidor銀行の口座をTokenに登録します。
  • (3:01)Iron Bankの口座をTokenに登録します。
  • (3:07)登録完了。登録してある口座のリストと、各口座の残高が表示されています。

ここまでで、Token自体が消費者から見えるAISP的な立ち位置にあることがわかります。次に、外部事業者であるPFM(つまりAISP)からのアクセス要求に、銀行の代理で対応するというシナリオです。

  • (3:20)画面右のFinVertexにログインします。初回ログインという前提です。
  • (3:30)従来のPFMですと、口座を一つずつ登録していきますが、FinVertexでは「Link with Token」というボタンがあります。クリックして認証すると、Tokenに登録しておいた全口座がFinVertexに登録完了となります。

FinVertexがAISPで、銀行に対して口座情報アクセスを要求する立場です。ここで、アクセス要求に銀行が直接対応するのではなく、銀行の代理でTokenがアクセス要求に対応しています。銀行にとってのAPI対応の負荷を肩代わりしているというシナリオです。

また、消費者にとっては、前もってTokenに口座を登録しておけば、FinVertexのようなAISPを使う際に一括で口座登録できるということを意味します。ここで、Tokenは、AISPと銀行の間に位置するサービスという位置づけになっています。

  • (5:00)SELLVANAというECサイトで、「Full Size Iron Throne」を購入する場面です。(Iron Throneは有名なTVシリーズ「氷と炎の歌」に出てくるもので、デモはそのパロディです。)通常の「Checkout」ボタンに加えて、「Quick Checkout」ボタンがありTokenのロゴが入っています。そちらをクリックします。
  • (5:16)「Quick Checkout」では、Tokenに登録されている配送先情報などを使えます。さらにTokenに登録した口座から支払うことができるので、どの口座を使うかを選択します。
  • (5:36)認証を経て、決済完了です。

このあと、金額の小さい買い物のシナリオが続きます。PSD2では一定の閾値以下の金額の買い物では認証を省略できるので、そのユースケースのデモです。Fidor銀行の口座からの即時払いを選択し、最後にFidor銀行の明細に実際に反映されていることを見せてデモ終了です。

銀行APIと決済

デモ後半のEC決済のユースケースは特に興味深いポイントを含んでいます。銀行がAPI対応することで、外部からの資金移動指示に対応しやすくなり、それが国際ブランドをバイパスする独自決済につながりやすいことを示しています。Tokenのデモでは、消費者はToken加盟店では、Tokenに登録してあるどの口座からでも即時払いで買い物ができることになります。

Tokenは銀行に対し、Tokenと提携することで、国際ブランドを経由しない独自決済を加盟店に提供できると提案しています。ブランド決済の手数料は欧州では法律で低く抑えられていますが、Token決済ならば利鞘も大きいとしており、まさにPSD2対応と同時に決済事業の収益向上を売り込んでいます。

加盟店での銀行口座即時払いでは、日本でも横浜銀行の「はまPAY」や、「Yahoo!ウォレット」の「預金払い」などがありますが、Tokenのデモでは、銀行がAPI対応することで外部からの資金移動指示にも対応しやすくなり、それが国際ブランド以外の独自決済の実現の早道でもあることを示しています。

銀行がカードイシュアである欧州では、Tokenが提案するようなAPI型独自決済は国際ブランドに対する脅威であって、銀行(=イシュア)には新たな機会と映ります。しかし銀行業界とカード業界が別々に存在している日本ではもう少し状況が複雑です。銀行口座即時払い型独自決済は、カード業界を完全にバイパスする構造となるからです。

銀行APIの議論が先行していた日本ですが、5月8日に発表された経済産業省「FinTechビジョン」ではカード業界のオープンAPI促進が盛り込まれました。決済を巡って銀行とカード会社がどのように動いていくのか。オープンAPIによって、日本の決済シーンは、今後大きく変わっていきそうです。