2015年9月16日・17日に米国ニューヨークにて開催されたFinovateFall 2015。多くのスタートアップを含む70社のフィンテック企業が行う7分間のデモで構成される、フィンテックの祭典です。今回はインフキュリオンからも参加し、フィンテックの先端動向を調査してきました。これからも本ブログでその内容を紹介していきます。
さて今回のFinovate参加者は約1,500人。その参加者の投票で「Best of Show」受賞8社が選ばれました。参加者からの支持を集めたサービスではありますが、一参加者としては甲乙つけがたいサービスばかりで、受賞に至らなかった出展企業にも面白いものが多数ありました。とはいえ一度に70社の紹介は困難ですので、本稿ではまずその8社のサービスの概要を紹介したいと思います。
まずは受賞8社のサービス概要を一覧表にしてみました。(2015年10月8日改訂)
それでは受賞8社をそれぞれ簡単に紹介していきましょう。なお、受賞8社のリストはFinovateFallのブログサイトで確認することができます。実際のデモ動画もFinovateサイトで公開されています。本稿末尾のリンク集記事を参照ください。
関連情報
- FinovateFallのブログサイトにおける受賞8社のリスト http://finovate.com/finovatefall-2015-best-of-show-winners-announced/
目次
Blockstack.io(https://blockstack.io/)
最近何かと動きの多いブロックチェーン。仮想通貨ビットコインの基盤技術で、不特定多数のプレイヤーで分散管理する取引台帳を実現する技術です。仮想通貨だけでなく、資産登記や契約文書にも適用可能で、金融を超えて幅広い分野で大きなインパクトを与える技術として注目が集まっています。
しかしブロックチェーンの構築は技術的な難易度が高く、例えばビットコインのブロックチェーンにもバグが紛れ込んでいますが、修復作業による新たなバグ混入のリスクがあり触ることができなくなっているなど、金融機関による自前の開発は現実的ではありません。
そこでこのBlockstack.ioは、プライベートブロックチェーンのホスティングサービスを提供。金融機関は自社独自のブロックチェーンを迅速に構築し、決済や送金などのサービス提供することができます。
今回のFinovateFallではビットコイン/ブロックチェーン系の出展は2件、そのうち1件がBest of Show受賞しています。ブロックチェーンへの関心の高さがうかがえます。
なお、ブロックチェーンについては本ブログで取り上げた記事(下掲)や、カードウェーブ誌9月・10月号にも本ブログ著者による寄稿が掲載予定ですので興味のある方は参照ください。
Dyme(http://dyme.co/)
Finovateではミレニアル世代(2000年代以降に成人する、80年代以降に生まれた世代をターゲットとするサービスがいくつか出展されており、従来の金融機関が取り込み切れていないがモバイルチャネルでアプローチしやすい層として関心が集まっていることが見て取れました。このDymeもミレニアル世代向けサービスですが、こちらは個人の金融行動改善という側面を捉えたサービスです。
サービス開始の動機は、ミレニアル世代は貯蓄口座を持たない人が多いこと。このままでは健全な金融生活を送れない人が続出していくという危機感です。Dymeのサービスは、個人による貯金を支援するもの。貯金の目標額を設定しておき、会話形式のSMSでフォローアップすることで貯金への意欲を向上させます。貯蓄口座(savings account)と当座口座(checking account,普通預金口座のような感覚)を登録しておき、SMSでDymeに対して例えば「save 20」などとメッセージを送ると20ドルを当座口座から貯蓄口座に振り替えます。定期的に「貯金してください!」とDymeからSMSが届くのですが、そのトーンが体育会系インストラクター、教師、ひどい親などいくつかのパターンから選べるという遊び心も特徴です。
日本においても金融リテラシー向上のため、ミレニアル世代やもっと若い世代向けにこのようなサービスが普及していくことは意義があるように思います。
Dynamics(https://dynamicsinc.com/)
カナダを拠点とする同社、すでにカナダのファストフード大手であるティム・ホートンなどで成果を挙げているサービスの紹介です。同社はクレジットカード機能やポイントカード機能など複数機能を搭載した物理カードを提供。カード上のボタンを押下することで機能の切替が可能で、ポイントカード以外にも複数の通貨機能にも使えます。
複数のカード機能をまとめる物理カードというと、本ブログでも取り上げたことのあるCoinやPlastcなどがありますが、これらは任意のカードを自分で登録するサービス。Dynamicsは複数機能を持ったカードを発行するという点が異なります。
デモプレゼンでは上記のティム・ホートンズでのVisa機能とポイント機能を搭載したカードの事例が強調されていました。ポイント利用率が向上し、来店回数や顧客満足も向上したとのことです。
Finanteq(http://finanteq.com/)
欧州から参加したFinanteq。デモでは男女の寸劇形式で聴衆を楽しませていました。サービス内容は、各種のEC機能を搭載したモバイルバンキングアプリ。残高管理・請求支払・借り入れ機能に加え、タクシー手配やチケット購入などもできる、というものです。
内容としては面白いのですが、ECはECの、タクシー手配はタクシー手配のアプリやサイトがある中で、わざわざモバイルバンキングアプリ上でECやタクシー手配までするものでしょうか。デモにおいてもその点を指摘したうえで、「でもアプリを切替えずに全部このアプリ上でできるから便利よ!」と答えていました。米国の銀行としてはモバイルチャネルで価値を提供しなければ顧客が流出してしまうという怖れがあるのかもしれませんが、消費者がどのように反応するか、また日本の消費者だったらどのように受け止めるのか、考える必要があるサービスです。
Hedgeable(https://www.hedgeable.com/)
資産形成や資産運用は個人の責任、という文化の根付いた米国。しかしミレニアル世代などは貯蓄性向も低く、資産運用などやっている人は少ないようです。Hedgeableは、ミレニアル世代を念頭に置いた資産形成支援。リスクへの考えかたや投資目標などを踏まえて、ビットコインを含む多様な投資商品から、本人のためにカスタマイズしたポートフォリオを提案してくれます。
同社によると、既に資産を持っている人にはプライベートバンキングなど手厚いサービスがありますが、資産を持たないゆえに本来は助言やサービスが必要な層にはポートフォリオ構築など支援してくれるところがない、ということがサービス構築の動機。
「貯蓄から投資へ」を掛け声としている日本においても、投資の間口を広げるようなサービスは望まれていますし、既に日本のフィンテックにとっての重要分野の一つです。
HelloWallet(http://www.hellowallet.com/)
こちらも個人の資産管理・資産形成を支援するサービスで、今回のデモは、リタイアに向けたファイナンシャルプランニングに特化しています。リタイアした年齢やライフスタイルを入力することで資産の推移などのシミュレーションを見ることができます。
このサービスは企業など雇用者に使ってもらうことを想定したもの。雇用者が社員などに福利厚生の一環として提供する資産形成アドバイス機能、という位置づけです。
デモを見る限りでは、特に目新しい点には気づきませんでしたので、同社の受賞にはちょっと驚きました。
SaleMove(http://www.salemove.com/)
オンラインカスタマーサービス機能を提供するSaleMove。Web上での顧客の行動をリアルタイムで把握しておき、たとえば申込書の記入方法で戸惑っている顧客などにテキストチャット/動画チャットなどでアドバイスすることができます。同じ画面で顧客とカスタマーサービスがそれぞれのカーソルで操作できる「コブラウジング」など、ブラウザ操作に不慣れな層の取り込みに効果がありそうでした。
ほかにも、入力画面に表示するコールセンター電話番号をカスタマイズしておくことで、電話がかかってきた時点でどの顧客のどの画面かを把握して対応できるなど、様々な工夫が施されています。
このように文章で紹介するとありきたりに思えるのですが、デモを見ていると、「心地よいカスタマーサービス」を実感できるような内容でした。Finovateサイトにデモ動画がアップロードされた際には、一見の価値ありと思います。(本稿執筆時点ではデモ動画はまだアップロードされていない。)
Soundpays(http://www.soundpays.com/)
8社目の受賞企業はSoundpays。こちらは音を使って決済できるモバイルウォレットを提供する会社です。店で決済する場合は、店舗端末から発信する音波をスマートフォンが認識することで、店舗からのトークン(識別情報)を受信、スマートフォンがSoundpaysサーバーと通信することで決済が完了します。ここで、スマートフォンからは店舗に何の通信も行われないことがポイント。店舗側はあくまでトークンを発信するだけで顧客からのデータを一切扱う必要がないため、セキュリティや電文処理にコストをかける必要がありません。同社はこれをSME(small and medium-sized enterprises;中小事業者)向けの決済サービスと位置付けています。
また、この音波決済の特長を活かして、クーポンや購買情報のトークンをテレビ番組やYouTubeなどの動画配信に組み込むこともできます。動画の音の中からスマートフォンがトークンを検知することで、クーポンを受信したり、広告動画の商品を即時購入したりできます。
上記2つのユースケースをデモでも説明していましたが、前者は加盟店開拓がボトルネックになりそうです。後者は通常の動画配信・動画放送にトークンを載せられるという点は面白いですが、一定数のユーザーがいなければビジネスとしての実現は困難です。いずれにせよ、大変興味をそそられる技術で、今後の発展を期待します。
以上、まずはFinovateFall 2015の受賞企業の紹介でした。引き続き、Finovate動向について順次レポートを公開していく予定です。
※本稿の内容は執筆者の所感に基づいています。会社としての見解とは異なる場合があります。