民間最終支出のキャッシュレス化率17%の日本。順調に伸びているとはいえ、まだまだ「現金派」の方が多い状況では、「キャッシュレス社会」と言われてもピンとこないかもしれません。
そこで、既にキャッシュレス化されており現金を使う人がほとんどいないという北欧諸国のうち、スウェーデンの状況について紹介し、キャッシュレス社会とはどんなところなのか考えてみようと思います。
参考文献:
- 「IMAGINING A CASHLESS WORLD」、New Yorker (by Nathan Heller)、2016年10月10日
- 「Sweden leads the race to become cashless society」、The Guardian (by Jon Henley)、2016年6月4日
キャッシュレス国家・スウェーデン
それでは、スウェーデンのキャッシュレス化状況はどのようなものなのか見てみましょう。キャッシュレス化率は既に95%を超えています。そして2009年には1060億クローナ(約1兆3000億円)だった現金流通量は、2015年には770億クローナにまで減少しています。また、リテール取引の現金利用率のグローバル平均はだいたい75%と言われますが、スウェーデンではそれは20%と、この5年間で半減しています。
キャッシュ非利用が主流とのことで、既に現金の入手や預け入れは困難です。スウェーデンにある1600の銀行店舗のうち、900は現金を扱っていないとのこと。また地方部にはATMすらありません。
鉄道やバスなど交通機関の券売機はカードONLYで現金不可。さらにカフェやレストランなど飲食店は「現金お断り」ということで、本稿に掲げた画像のようなステッカーを貼っているのだとか。現金お断りは、店舗を構えている店だけでなく、青空市場の屋台のような店でも同様。さらに、日曜日の教会でのお布施集めなどもキャッシュレス化しているとのことです。
このようにほとんどキャッシュレス化してしまっているスウェーデン。そのスタイルに慣れきった人からすると、「現金なんて不要」という感覚のようで、2017年から投入される新紙幣については「現金なんて使わない人が多いのになぜ新紙幣なぞ発行するのか」という疑問がスウェーデン中央銀行のFAQにも載せられているくらいです。
キャッシュレス化がここまで進んだ要因は様々ですが、日本から見ると興味深い点を挙げてみます。まず、欧州諸国でよくあるのですが、現金決済には上限額が法律で決められています。あまり高額な取引を現金で行うことは禁止されているのですね。これは脱税やマネーロンダリングの防止の目的で導入されています。
次に現金取扱いのコスト。店舗においてもそうですが、これは銀行において大きな負担となっていましたので、キャッシュレス化にはコスト削減施策としても位置付けることができます。
また、銀行からすると、社会がキャッシュレス取引に移行すると、その手数料で収益をあげることができます。(手数料自体は低く抑えられているようですが、現金取引では何も収益にならないことを考えるとキャッシュレス推進のほうがプラスです。)
あとは犯罪対策ですね。店舗にも銀行にも、そして道端の屋台や物乞い(!)する人も現金を保有していないので、現金が奪われるような犯罪は激減しているとのことです。
キャッシュレスを支えるモバイル決済
それでは、キャッシュを使わずにどうやって生活するのかというと、カード決済そして近年急速に普及したモバイル決済があります。
スウェーデンで利用されているモバイル決済はSwish、SEQR、iZettleなどがありますが、その中でもっとも広く普及しているのは、同国の複数の有力銀行が共同で開発したSwish。買い物代金の決済やPtoP送金機能を持ち、利用金額は即時に銀行口座に反映されます。
Swishが開始されたのは2012年ですが、現在までの4年間で、スウェーデン人口の半数、そして30歳未満の成人のなんと90%が利用しているとのこと。その成功には、マーケティングの工夫があるようです。Swishが最初のユーザとして想定したのは「先進ユーザ」と「まとめ役」。「先進ユーザ」は容易に想像できると思いますが、面白いのは「まとめ役」です。これは、例えばママ友やPTAなど、みんなで集まってどこかへ行ったり何かをしたりするときの幹事役の人。そういったイベント時にはお金の貸し借りが発生するので、その清算は「まとめ役」の負荷になりがちです。Swishはそこに着目し、サービスローンチ時に「まとめ役」をターゲットとして集中的にマーケティングを行ったとのこと。「まとめ役」がSwishを使い始めることで、その周囲の人たちも芋づる式にユーザとなり、広く普及していく足がかりとなったのです。
対策を要する「現金難民」
しかし、キャッシュレス化の波についていけない、ついていきたくない人も存在します。スウェーデンでも、特に地方部の高齢者などは、やはり現金生活を続けたい人も多くいるようです。
こういう人たちの生活はどんどん不便になっています。例えば何かの集まりで、会費などを現金で集金すると、そのお金を入金させてくれる銀行店舗を見つけるのに一苦労です。もちろん、払う側もその現金の調達は頭の痛い問題です。
そこで検討されている対策は、「事前に現金を予約し、近くの銀行店舗などで受け取れるようにする仕組み」。我々からすると不思議な感じがしますが、スウェーデンではお酒や医薬品などで同様の仕組みが既に存在しているので、それにならったシステムを検討しているようです。が、若い世代はもう現金を使わないのが普通という状況なので、「現金難民」も時間とともに自然に減少していきそうです。
キャッシュレス先進国のスウェーデン。同国に旅行する際には、現金両替の必要性は全くなさそうです!