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続・決済センターの役割解説②:「決済代行事業者」と「mPOS」がもたらしたもの

前回は「決済センター」の成り立ちについて解説しましたが、クレジットカードの「決済センター」について語る時、もう一つ欠かせないのが「決済代行事業者の存在です。今回は決済業界の縁の“下の力持ち”的存在である「決済代行事業者」と、小規模加盟店網の拡大に寄与した「mPOS」について説明していきます。

アクワイアリングの代行者

前稿「決済センターの役割解説①:クレジットカード取引を構成する『5パーティモデル』」で、クレジットカードに関する業務は「カード発行(イシュイング)」と「加盟店管理(アクワイアリング)」の両輪で成り立っていることをご説明しました。カードビジネスの黎明期は基本的にクレジットカード会社(アクワイアラ)がすべての加盟店業務を担っていましたが、そもそも国内でカード加盟店になり得る小売・サービス業の店舗数は数百万にも及びます。しかも、インターネットが本格的に普及した2000年頃からはECサイトが次々に誕生。画面にカード番号を入力するだけで支払いが可能なクレジットカードはインターネットショッピングとの親和性が非常に高く、EC市場の拡大はそのままカードのトランザクション数や取扱高の増加につながっていきます。

こうした状況下において、カード会社だけですべての加盟店の開拓・管理を担うのは物理的にも困難でした。そこで登場したのがアクワイアリング業務を代行する「決済代行事業者」なのですが、彼らもまた「決済センター」と呼ばれるプレーヤーの一つです。 

決済代行事業者の役割

決済代行事業者の役割は、アクワイアラと加盟店の間に立ち、決済サービスを提供することにあります。具体的には加盟店獲得のための営業に始まり、加盟店申込や審査の取次・代行などを手掛けます。契約後は各加盟店の売上管理や入金処理も行いますし、EC加盟店に対してはショッピングサイトで使うカード決済システムの提供、さらにはカードの不正使用を防ぐためのセキュリティ環境の整備も実施しています。

近年では「決済代行事業者」と言った場合、非対面決済の取次事業者を指すことが多いのですが、実際には対面決済においても決済代行事業者は多く存在しています。  

ちなみに、「対面決済」「非対面決済」というのはカード業界でよく使われる用語で、前者は実店舗(リアル店舗)での決済を、後者は主にECサイトでの決済を指します。類似する用語で「オンライン決済」「オフライン決済」というものもありますが、クレジットカードの世界では実店舗の決済端末でICクレジットカード決済を行う際、リアルタイムでセンター間通信(オーソリ等)を行うことを「オンライン決済」、端末内でのICカード認証だけで済ませることを「オフライン決済」と呼んできたことから、混乱を避ける意味でも「実店舗=対面決済」「ECサイト=非対面決済」と表現することが多くなっています。 

決済代行事業者は、文字通り加盟店の決済業務をすべて代行してくれる存在のため、取り扱っている支払方法はクレジットカードに限りません。電子マネーやコード決済、コンビニ決済、携帯キャリア決済、後払い決済(BNPL)など、あらゆる支払いに対応しています。加盟店にとっては、こうした多様な決済手段を個別に導入しようとすると、申込や契約に時間と手間がかかる上、導入後も売上金がバラバラに入金されるため、管理が大変になります。しかし、決済代行事業者を通せばこうした煩わしさが解消され、各種決済の取り扱い状況も一つの管理画面で確認することが可能になるのです。 

革新的だった「mPOS」の登場

対面決済の決済代行事業者は、クレジットカード会社が出資して設立されたものや飲食店の協同組合が母体になっているものなど、さまざまな業態が存在しますが、その存在が一躍注目を浴びるきっかけとなったのが2010年頃に登場した「mPOS(エムポス)」と呼ばれる決済端末です。従来の決済専用端末とは異なり、スマートフォンやタブレットのアプリをベースとして、そこに簡易的なカードリーダーやモバイルプリンタを組み合わせることで、低コストでのカード決済システムを実現したものです。 

米国発のビジネスであるmPOSは、X(旧Twitter)の創業者であるジャック・ドーシー氏がTwitterの次に始めた事業として注目を集めた「Square(スクエア)」が元祖と言われています(ちなみに、「mPOS」とは「mobile POS」の略語で、元々は「Square」のような決済サービスの総称なのですが、2013年にこの分野に参入したベリトランス〔現DGフィナンシャルテクノロジー〕は自社のサービス名称としても「mPOS」を使っています)。 

初期のmPOSでは、スマートフォンのイヤフォンジャックに差し込んだドングル(カードリーダー)でカードの磁気ストライプをスワイプして読み取るというのが一般的でした。余談になりますが、筆者は初めてこの仕組みを目にした際、そのあまりのシンプルさに驚くと同時に、「本当にこんなものでクレジットカード情報を読み取っていいのだろうか‥‥」と一抹の不安を覚えた記憶があります。さらに驚いたのは、このカードリーダーがコンビニでも売られるようになり、その気になれば誰でも「カード加盟店」になれてしまうようになったことでした。ただ、この革新的な決済システムの登場は、既存の端末費用や加盟店手数料の問題(後述)でクレジットカードの受け入れ(アクセプタンス)に消極的だった小規模店舗の意識を変えることにつながった、という一面もあります。

その後、米国でカード決済のセキュリティ強化を推進する大統領令が発令されたことや、国際ブランドによるライアビリティシフト(ICカード決済に対応していないカード会社が不正取引の責任を負うルール)の導入などにより、mPOSもセキュリティ性の高いICカード決済への対応が進みます。イヤフォンジャックに差し込んで使われていた磁気カードリーダーは、Bluetooth接続のIC対応型に置き換わっていきました。  

「mPOS」がもたらしたもの 

mPOSの登場によって、カード業界ではいくつかの大きな変化が起きました。その一つとして挙げられるのが、加盟店手数料のオープン化です。クレジットカードの加盟店はカード会社(アクワイアラ)に対して一定の手数料を支払っています。決済代行事業者は通常、アクワイアラが設定した手数料に自社の取り分を上乗せして加盟店に請求する形をとっているのですが、mPOSでは先行した事業者がこの手数料率を一律に定めて公表したことで、後から参入した会社もそれに倣うようになりました。

それまで日本では手数料率が原則非公表で、店舗ごとに異なっているのが当たり前でした。これは業種・業態・規模などによって売上高や利益率に差があることも理由の一つですが、実際には同じような店舗であっても「加盟店Aは手数料率2%だが、加盟店Bでは3.5%」といったことが起こり得ます。もちろん、この手数料は加盟店が決済代行事業者やカード会社に支払うものなので、カードユーザー(客)には見えませんし、直接は関係ありません。ただ、mPOSの手数料が公開されたことで業界全体に"手数料の引き下げ圧力”のようなものが発生し、結果的にカード加盟店が増えやすくなったという効果はあったようです。

その後は皆さんもご存じのように、日本に一大キャッシュレスブームがやって来ます。そのけん引役になったのが「PayPay」を始めとするコード決済なのは間違いありませんが、キャッシュレス決済の取扱高の約8割はクレジットカードが占めている(※)ことを考えると、小規模のカード加盟店を増やすことに貢献したmPOSと決済代行事業者は、今般のブームを下支えする陰の立役者と言ってもいいのかもしれません。

(※)出所:経済産業省ニュースリリース「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」(2024年3月29日)

 

今回は決済センターの一形態である「決済代行事業者」と「mPOS」について説明しました。次回は新世代の決済センターの 動向について解説したいと思います。