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続・決済センターの役割解説①:決済センター誕生の経緯

前稿「決済センターの役割解説①~③」では、クレジットカードビジネスの構成要素である「5パーティモデル」と各プレーヤーの役割、決済取引の流れ、そして最後に決済センターの役割について説明しました。少々回りくどい話になってしまいましたが、「決済センターとは何か」を理解してもらう上で、カード決済の基本的な仕組みに関する解説は欠かせません。

しかも、「決済センター」という言葉にはいくつかの定義があり、使い方によって指すものが微妙に異なります。大まかに言えば、カード会社と加盟店を相互に接続するためのハブとしての機能を果たしているわけですが、そういうプレーヤーは意外にたくさんいるのです。

日本の決済センターの“元祖”

さて、日本の決済センターについて語る時、まず触れなくてはならないのは“元祖”であり、現在に至るまでその中心的役割を担っているNTTデータの「CAFIS(キャフィス)」についてでしょう。国内におけるクレジットカードの歴史を紐解いていくと、昔も今もCAFISが果たしている役割は非常に大きなものであることが分かります。また、CAFISのサービスの変遷からは、日本のクレジットカード決済がどのように進化してきたかも見えてきます。

CAFISの誕生は、NTTグループが民営化される前の日本電信電話公社(通称・電電公社)時代である1984年にまで遡ります。この頃、日本の決済シーンにおいてクレジットカードはまだそれほど一般的ではなく、百貨店などの限られた業種を中心に使われている状態でした。クレジットカードの本格的な普及に向けてはいくつかの課題があったのですが、その一つが利用承認の手間でした。店頭での決済の際に、利用金額がカードの与信枠を超えていないか、また盗難カードの不正利用ではないかなどを確認するのに、非常に手間がかかっていたのです。

クレジットカードのデコボコの意味

当時、店頭でクレジットカード決済を行う際は加盟店が「インプリンタ」と呼ばれる手動の転写機を使って券面のカード番号や有効期限を売上伝票に写し取っていました。

最近はカード情報が券面に印字されていないクレジットカードも増えていますが、皆さんが持っているカードには番号や有効期限、氏名などが券面に凸状にエンボス加工されているものも多いと思います。このエンボス加工は印刷と違い、少しくらいこすれても消えないという耐久性の効果もありますが、元々はインプリンタでカーボン紙を使って伝票に転写するために施されていたものです。子供の頃、表面がデコボコしているものの上に紙を置いて、上から鉛筆で軽くこすると模様が浮き出てくるという遊びをしたことがある人もいると思いますが、あの要領です

現在では実店舗でカードを使うと、決済端末から取引の承認番号や決済金額などが印字された売上伝票が3枚印刷され、そのうちの1枚を手渡されます。3枚の内訳はカード会社用、店舗用、カード会員用なのですが、インプリンタでカード情報を転写する伝票も3枚複写になっていて、基本的には同じ構成でした。ただ、物理的に紙に転写するため、カード番号や有効期限などの情報がそのまま載っていました。この頃はECサイトのようにカード番号と有効期限だけで決済するシーンがほとんどなかったので、それほど問題にはならなかったようです。

現在の売上伝票は、情報漏洩を防ぐためカード番号は大部分がマスキングされています。もっとも、ひと昔前まではカード番号が全桁印字される設定の端末も存在していて、うっかり伝票を落としたり、捨てたりしてしまうとカード番号を他人に知られる恐れもありました。カード番号のマスキングが徹底されるようになったのは比較的最近のことです。

電話と紙のリストから「オンライン」へ

さて、カードの利用承認に話を戻します。当時、店頭でクレジットカードが使われた際の主な承認手段は「電話」でした。一定金額を超えたカード決済については、加盟店がアクワイアラ(加盟店契約会社)の信用照会センターに電話をかけ、いちいち承認を得るという方法が取られていたのです。また、カード会社から紛失や盗難などで無効化されたカード番号の紙のリストが各加盟店に配布され、それと店頭で出されたカードを照合するという方法もありました。今では到底考えられないやり方ですが、カード会員も加盟店も現在とは比較にならないほど少なかったために成立していたとも言えます。しかし、日々増え続けるカード取引に対応するためには、より効率的で精度の高い利用承認スキームが求められていました。

そこで登場しれたのが、決済端末と電話回線を利用したオンラインの与信照会システムです。クレジットカードの磁気ストライプに記録されたカード情報を店頭の端末から決済センターに送り、そこからカード会社のホストコンピューターに照会してカードの有効性を確認、利用承認(オーソリ)を取るというもので、やり方自体は現在のオーソリシステムとほぼ同じです。この「決済センター」を日本で最初に実現したのが、電電公社の「CAFIS」だったのです。

当時はまだアナログの固定電話回線を使っていたため通信速度が非常に遅く、オーソリを取るにも分単位の時間がかかっていました。それでも、電話や紙のリストに頼っていた時代に比べれば、クレジットカードの利便性と安全性は飛躍的に向上します。結果、カードの決済件数・取扱高は徐々に増え続け、クレジットカード産業が大きく成長する一つのきっかけにもなりました。

次々に誕生した決済センター

カードビジネスの拡大に伴って、業界ではCAFIS以外にも新たな決済センターが次々に誕生します。1995年にはカード会社大手のジェーシービーなどによって日本カードネットワークが設立され、「CARDNET」が稼働します。CARDNETは今日でもCAFISと並ぶ日本の2大決済センターとして、多くのカード取引データを扱っているキープレーヤーです。また同年、Visaカードを発行していた複数の大手カード会社とビザ・インターナショナルが共同で立ち上げたジーピーネットが決済センター「GPネット」のサービスを開始(2016年にサービス終了)。さらに、1998年にはセイコー系の「CREPiCO(クレピコ)」、2000年にはJTB系の「C-REX(シーレックス)」などが相次いで設立されました。

各決済センターはカード会社と協力して、専用の決済端末を全国の加盟店に普及させていきます。ちなみに、CREPiCOは当初からタクシー専用端末やモバイル端末の分野に注力して現在に至りますし、C-REXは主にホテル・旅館などの宿泊施設や観光施設向けに端末を普及させていくなど、決済センターの中でもそれぞれ独自の分野を開拓して強みを発揮するところが出てきます。

「オーソリだけ」から「ギャザリング」へ

当初はカード利用の可否を確認するためのオーソリのみを行っていた決済センターですが、1992年にCAFISが「ギャザリング」と呼ばれるサービスを開始します。

これは与信データだけでなく、決済金額などの売上データも同じ端末・回線を使ってカード会社に送るという仕組みです。それまでは加盟店が売上伝票をアクワイアラに郵送するなどしていましたが、ギャザリングの導入によってオーソリ取得と同時に売上計上もできるようになったのです。加盟店からアクワイアラへの売上計上は「クリアリング」とも呼ばれますが、「クリアリング」が紙伝票の郵送なども含めた計上業務の総称なのに対し、「ギャザリング」は決済端末を使ってオーソリと同時に売上データも計上することを指します。なお、売上計上のタイミング自体にはさまざまなパターンがあるものの、オンラインでオーソリと売上計上を行うやり方は現在に至るまでクレジットカード決済の標準的な仕組みとして運用されています。

 

今回はカード業界における決済センター誕生の経緯について説明しました。次回は決済センターの一つである「決済代行事業者」と「mPOS」について解説していきたいと思います。