インフキュリオンインサイトでも米国モバイル決済市場の主要プレイヤーの一つとして取り上げたことのあるCurrentC。いよいよ2015年秋にリリースとなる見込みと、Bloomberg Businessが報じました。
2014年のApple Pay開始以降、サムスンのSamsung PayやグーグルのAndroid Payが発表されるなど、盛り上がりを見せている米国モバイル決済市場。国際ブランドのペイメントカードを登録し、国際ブランドによる標準化団体EMVCoが策定した仕様に基づくトークナイゼーションを利用するこれらのサービスは、カード決済の将来像とも言えます。
カード業界の期待を背負って展開するApple Pay・Samsung Pay・Android Payですが、CurrentCは逆に、カード業界への対抗策として開発されているサービスです。本稿では、リリース間近なCurrentCについて考察します。
CurrentCを開発しているのは、米国の小売業者が設立したMCX(Merchant Customer Exchange)。ウォルマートやセブンイレブンなど大手の小売企業が加盟しています。その設立の目的は、決済コストを下げ、顧客データを自分たちのものにすること。国際ブランドのクレジットカード/デビットカードの利用が盛んな米国ですが、加盟店が支払う手数料や、カード業界に顧客データを独占されていることへの強い反発が背景にあります。
カード業界への対抗策として打ち出したCurrentCは、QRコードによるモバイル決済サービス。カード決済ネットワークを経由せず、ACH(Automatic Clearing House)を利用することで決済コストの低価格化を目指しています。加盟企業全体で11万店舗と年間売上1兆ドルを誇るMCXに浸透すれば、大きな存在感を持つことになります。
開発に約3年を費やしているCurrentCですが、Bloomberg記事によると、既にMCX加盟企業の従業員によるテストを経ており、来月には店舗での試行を開始するとのこと。冒頭で述べたとおり、2015年秋にはリリースとなる見込みです。
しかし既に、CurrentCの成功に対する悲観論も出ています。まず一般消費者が抱くセキュリティの不安感。米国では大手小売のターゲット社からの大規模なカード情報漏洩があったこともあり、小売業界に対する信頼感は高くありません。加えて2014年秋には、まだ開発中だったCurrentCが外部からの攻撃にあい、Eメールアドレスが漏洩したと報道されたこともマイナス材料です。
また、カード業界への対抗心をむき出しにするMCXですから、当然カード業界の協力は得られません。消費者は既存のクレジットカードやデビットカードをCurrentCに登録して使うことはできず、Target社のREDカードのようなハウスカードや、銀行口座を登録する必要があります。入会と利用の障壁となること必至です。
さらに、CurrentCの開発にかかった3年間の間に大きく状況は変わりました。Apple Payの登場はその最たるもの。実はMCX加盟企業は、3年間はCurrentC以外のモバイル決済サービスを利用しないという契約に縛られており、Apple Pay開始の際には、Apple Payを使えなくするためにNFC決済を止めたりした企業がいたことが大きな話題を呼びました。そしてCurrentCの排他的地位が解除されるのはなんと2015年8月。そのタイミングを狙ってか、MCX加盟の大手企業であるベストバイがApple Pay導入計画を発表したりと、Apple Pay陣営への鞍替えの動きが表面化しています。Apple Payなどの非接触EMV型のモバイルウォレットの興隆を目の当たりにして、MCX加盟企業のCurrentC支持も揺らいでいると思われます。
MCXが満を持して放つはずのCurrentCですが、上記のような逆風のなか、成功を勝ち取ることができるでしょうか。
参考情報
- Merchant Customer Exchange (MCX) (http://www.mcx.com/)
- 「Retailers’ Answer to Apple Pay Is Said to Hit Stores in August」, Bloomberg Business, 2015年7月24日