取扱高が拡大を続けている日本のキャッシュレス決済。それを牽引しているのは国際ブランドクレジットカード決済と電子マネーですが、これら既存のインフラを経由しない新サービスが相次いで発表されました。本稿では、消費者の銀行口座からの即時引き落としを行うという「銀行口座直結型決済サービス」である横浜銀行「はまPAY」やYahoo!の「預金払い」の位置付けについて考察します。
拡大を続けるキャッシュレス決済
日本のキャッシュレス決済の概況については最近のインサイト記事「日本のカード決済の拡大状況(2009年から2014年)」においても解説しました。2014年の国際ブランドカード決済の取扱高は46兆円、電子マネーは4兆円という規模でしたが、2015年にはそれぞれ50兆円・4兆6千億円へと拡大しています。
関連情報
- 「日本のカード決済の拡大状況(2009年から2014年)」、インフキュリオン・インサイト、2016年8月5日
- 「クレジット関連統計」、日本クレジット協会
- 「決済動向」、日本銀行
国際ブランドカード決済のインフラ
50兆円規模に拡大した国際ブランドカード決済。そのインフラは、Visa・JCB・MasterCardといった国際ブランドを中心とし、カード発行を行うイシュア、加盟店を獲得するアクワイヤラ、そしてそれらのプレイヤーを繋ぐネットワーク事業者、さらにPSP(ペイメント・サービス・プロバイダー)など多様な参加者たちが多層構造を成していることが特徴の一つです。
このような分業体制は、情報通信技術が発展途上にあったキャッシュレス決済黎明期において、消費者と加盟店を獲得しサービスを普及させる上でとても有効な仕組みでした。
しかし現在はモバイルネットワークが浸透し、消費者も加盟店も常時オンライン接続が当たり前の時代。「取引当事者を繋ぎ、債権債務関係を清算する」という決済サービス提供の技術的ハードルは劇的に下がっています。そのような技術的・社会的な環境変化を受けて登場したのが、以下で紹介する銀行口座直結型決済サービスと言えるでしょう。
銀行口座直結型決済サービス
2016年になってから、カード決済インフラを経由せずに、消費者の銀行口座からの即時引き落としを行うサービスが登場しています。
まずはYahoo!の「Yahoo!マネー・預金払い」。銀行口座の利用して決済できるサービスです。Yahoo!マネーへのチャージを行い、ECでの買い物代金を支払うのですが、残高不足の場合には預金払いの併用も可能。つまり、消費者から見れば、銀行口座にあるお金をそのままECで利用する感覚となります。
登録可能な銀行口座はYahoo!と提携している銀行のものに限られますが、その数は順調に増えており、2016年10月にはゆうちょ銀行との提携を発表。着実に存在感を大きくしています。
もう一つの「銀行口座直結型決済」は、横浜銀行とGMOペイメントゲートウェイによる「<はまぎん>スマホ決済サービス『はまPAY』」。こちらも加盟店での買い物代金を、消費者の銀行口座から蘇記事に引き落とすサービスですが、その対象はリアル店舗。しかも店舗側には専用決済端末などは不要で、全てアプリで事足りるよう設計されています。
参考情報:
- 「Yahoo!マネー・預金払い」、Yahoo!ジャパン
- 「ヤフーが電子マネー参入、LINE Payに対抗」、ITPro、2016年4月20日
- 「Yahoo! ウォレット、ゆうちょ銀行と連携で「預金払い」に対応へ」、マイナビニュース、2016年10月6日
- 「「〈はまぎん〉スマホ決済サービス『はま Pay』」の取扱開始について」、横浜銀行、2016年10月5日
- 「国内銀行初、横浜銀行の口座と連動したスマホ決済サービスを共同開発 ~スマホアプリから即時に口座引き落としによる支払いが可能に~」、GMOペイメントゲートウェイ、2016年10月5日
日本のカード決済は「翌月一括払い」が大半を占めています。利用代金はイシュアが立て替えておいて、月に一度の引き落としで銀行口座から回収するのが普通です。これは「銀行業界」と「カード業界」が別々に存在するという日本だけの特殊事情から来ていますが、「取引当事者間の債務関係の清算」に絡む中間プレイヤーが多く存在するという、海外から見れば特殊な状況を作りだしてきました。
そのカード業界をバイパスして、銀行口座の資金で直接清算してしまおうというこれらの銀行口座直結型決済。利用者と加盟店の獲得に成功し社会に広く普及することになれば、日本のキャッシュレス決済に大きなインパクトを与えること必至です。
ECの巨人であるYahoo!と地銀の雄・横浜銀行。ECとリアルにおいて、さらなるキャッシュレス決済拡大の起爆剤となっていくのでしょうか。