前回の記事でも触れましたが、2014年12月26日に大阪市の生活扶助費の一部をプリペイドカードで支給するモデル事業の計画が発表されました。大阪市、富士通総研、三井住友カードの三者が連携して実施していく体制です。本稿ではそのモデル事業のポイントを考察したいと思います。
富士通総研と三井住友カードによる企画提案から大阪市におけるモデル事業実施に至った模様で、イシュイングのシステム業務を三井住友カードが受託、ブランドはVisa、そしてNTTデータのクラウドサービスを利用して運用されます。
見込まれる効果
- 金銭管理支援
- 改正生活保護法で受給者の責務となった「収入、支出その他生計の状況を適切に把握する」ためのツールとして活用できる
- 計画的な金銭管理や家計管理が困難な受給者への支援に活用できる
- 遺失しても、カードの停止・再発行を行うことで当月の最低生活を保障することができる
- 貧困ビジネス事業者の排除
- クレジットカード会社の審査を通った加盟店でしか使えないため、利用可能店舗の質が保たれる
- 区保健福祉センターで支出状況の確認が可能なため、悪質事業者による経済的搾取を防止できる
- 利便性の向上
- 利用者は銀行まで現金をおろしに行く必要がない
- ネットショッピングでの支払いに利用することができる
出典
報道発表への世間の反応
生活保護制度をよりよいものにすることを目標としている本取組ですが、報道発表に対する世間の反応は以下のような賛否があります。
【賛成】
- たかりを予防できる
- 自分が収めた税金が、生活保護費として、どのように受給者に使われているのか知りたい
【反対】
- クレジットカード決済を導入していない小さな商店で使えないが、受給者の8割は高齢者と障碍者であり、加盟店まで行くか、ネットショッピングを使うように押し付けるのは不適切
- 緊急の支払に備える現金の留保ができない
- 不適切な使い方となる判断基準が不明瞭
- 支給と利用にかかる事務手数料自体が無駄
- 受給者の行き過ぎた管理は、人の尊厳に関わる
- 生活困窮者への公的扶助に営利企業が関わり、手数料収入を得るのは貧困ビジネスに他ならない
プリペイドカードによる公的給付への貢献
批判的な意見もあるようですが、本モデル事業はカード決済インフラの活用によって受給者の利便性と制度の効率化を実現してゆく方向を探るもの。制度改善につながる効果を実証し、社会の理解と受容を勝ち取っていくことが期待されます。
(なお、「緊急の支払に備える現金の留保ができない」という批判には、将来的にATMで現金出金ができる仕組みとすることが可能です。また、その機能が実装されれば、むしろ銀行口座を開設しなくても現金を受け取れるようになるため、利便性が増すと考えられます。)
米国では、すでに児童手当等のプリペイドカード支給実績があります。日本の公的機関においても、各種給付のプリペイドカード支給に取り組まれることは、かねてより決済業界から強い期待がよせられていました。今回の大阪市のモデル事業は、他の自治体への拡大の契機となるか注目されています。
ただ、今回のプリペイドカードは生活扶助費の受給者に限定されたものであり、このプリペイドカードを所持していることで、自分が生活保護を受けていることを他人にも知らせてしまうデメリットがあります。また、生活扶助費のプリペイドカード支給は現行法上「代物弁済」となるため、受給者の承諾が不可欠です。そのため、希望者に限定してプリペイドカード支給がされることになります。本来であれば、広く国民が所持するものにプリペイド機能を持たせ、その一部に生活保護費等の各種手当が含まれることが望まれます。例えば、個人番号制度のマイナンバーカードには、磁気部分にプリペイド機能を備えることが可能です。
生活保護費というセンシティブな金銭の流れにおいてブランドプリペイドがどのように貢献できるか、今後の動向を注視します。
参考情報