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モバイルデータによる新たな信用スコアリング

近年「信用スコア」という単語をよく耳にします。従来の信用スコアというと、例えば米国ではクレジットカードや住宅ローン、自動車ローン、学生ローンなどの利用実績と、返済状況のデータが信用スコアの核となっています。しかしこの従来の伝統的なデータをもとにした信用スコアでは、クレジット履歴がない人やそもそも銀行口座を持っていない人にとっては、スコアのつけようがなく適切な金融サービスを受けることが困難でした。特に新興国などでは先進国と比べクレジットカードや銀行口座保有率が非常に低く、正確な信用スコアを持っている人はほとんどいませんでした。

しかし近年、伝統的なデータを利用せずに他のデータ(非伝統的データ)によって信用スコアを算出する事業者が各国で誕生しています。非伝統的データを利用したスコアリングモデルの中でも特にモバイルデータを利用したものが有力視されており、その理由としてはモバイル端末は広く普及しており、人口の網羅性が高いことが挙げられます。モバイルデータの取得方法は大きく分けてMNO(移動体通信業者)から提供してもらうモデルと特定のアプリをダウンロードしてもらうモデルの2つがあります。

そこで今回は新興国を中心に、MNOとの提携や自社アプリによって得たモバイルデータを利用ている信用スコアリング事業者を紹介します。

Cignifi

Cignifiは「モバイルでの行動を経済的な機会に変える」というミッションの元、2010年にアメリカのマサチューセッツ州で創業されたスコアリング事業者です。主にモバイル携帯利用データに基づく独自の信用スコアリングモデルをガーナやメキシコ、ブラジルの金融機関に提供しています。また米国の大手信用情報機関Equifaxとも提携しています

モバイルデータの入手先は提携しているMNOからとなっています。提携先の大手MNOでは、Telefonia(スペイン),globe(フィリピン),airtel(インド),AT&T(アメリカ)など相応たるメンバーとなっています。提携先から得たモバイルデータを元に、通話 ・テキストメッセージ・ロケーシ ョン・ 高スコアユーザとの関係性などを分析し独自のスコアを提供しています。

公開されている実績として、ガーナでHFCbankとairtelから2013年7月から9月の間の口座アカウントとモバイルデータを提供してもらい分析したところ、電話をかける相手の数が多いほどデフォルト率は低くなるという傾向があります。

また2017年6月までに、新興国13カ国で1億人以上を対象にスコアリングを行っているという実績もあります。

最近はブラジルでポジティブなデータをもとにしたスコアリングを行っているQuodとパートナーシップを発表し、同国のMNOが直面している通信データの活用方法などの課題を解決していくとのことです。

参考情報:

JUMO

JUMOは2014年に南アフリカで創業されました。アフリカでは、ケニア、ガーナ、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、モーリシャスと8カ国で既に展開しており、昨年2018年のゴールドマン・サックスからの増資を機に、初のアジア市場として、パキスタンでのサービスを開始し始めました。これまでに公開されているもので約100億円もの資金調達を行っているアフリカ大手の信用スコアリング事業者となっています。

JUMOもCignifiと同じくMTNやAirtelといったMNOと提携しており、顧客のモバイルデータを取得し分析、スコアリングを行っています。

JUMOではこれまでに、1,000万以上の生活者にサービス提供を行い、10億ドル以上の貸付を行っている実績があります。

最近は2018年にUberと連携したJUMODriveという面白いサービスをリリースしています。これは新興国などでクレジットスコアを持たないUber運転手が対象で運転手の収入のほか過去の運転データなどから信用スコアを算出する仕組みとなっております。このスコアによって車や保険、メンテナンスなどに対するローンを提携銀行が融資します。こちらは既にケニアにて実証実験を行い2019年に他アフリカ諸国でリリース予定とのことです。

参考情報:

  • JUMO Drive」(YouTube動画)、JUMO World、2018年12月2日

Credo Lab

CredoLabは比較的若く2016年にシンガポールで創業され、既にシンガポール、インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム、ミャンマーなどの国へサービス展開を行っています。CredoLabへの投資額は210万ドルで、Walden International、Reliance Modal Ventura、Fintonia Groupが投資家に含まれています。CredoLabは、上記の2つのスコアリング業者とは異なりモバイルデータを自社アプリを通して顧客から取得するモデルを取っています。同社はCredoAppと呼ばれる携帯アプリを提供しており、借り手はこのアプリをダウンロードすることで、同社はその携帯電話から匿名データ(通話履歴、連絡先、SMS履歴、カレンダー、位置情報、アプリ利用履歴など)を収集し、これをもとに信用スコアを算出します。

また自社アプリ以外にも銀行などのクライアントのモバイルアプリに統合できる仕組みとなっています。例えばフィリピンのノンバンクであるRightChoiceFinancial社によるRightChoiceLendingというアプリはCredoLabによってリリースされており、ユーザーがアプリをダウンロードし、端末からのデータ収集に同意すると、端末データがCredoLabに送信され、信用スコアが算出される仕組みとなっています。

2018年には6Mのアプリダウンロード数を持ち、東南アジア、中国、インド、ラテンアメリカ、そしてアフリカの12カ国40のクライアントにサービスを提供しています。

また2018年11月から銀行や保険などの金融サービスの比較サイトを運営しているGoBearとCredoLabが提携しました。ベトナムで銀行口座を持たない4950万人に金融サービスを提供することを目的にスマートフォンアプリ、Easy Applyを立ち上げるとのことです。Easy Applyは、登録した顧客のモバイルデータをもとにクレジットカード発行のための信用スコアを算出しています。近い将来、個人向けローン、保険商品、およびその他の与信枠にも適用されます。

今回紹介する信用スコアリング事業者は以上ですが、この他にも多くの事業者がさまざまな国で新たな信用スコアを構築しています。

またアメリカや日本などの新興国以外でも非伝統的なデータを利用したスコアリング事業者は存在しますが、この場合は中国の「芝麻信用」のように融資を目的にしたものでなく、信用スコアによってよりよいサービスを受けることができ、スコアの低下を考慮した不正防止などに利用される風潮があります。

今後も各国のスコアリング事業者に目が離せません。