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電子決済の普及と小額硬貨の減少

weyo/Bigstock.com

インサイト「完全キャッシュレス化に向けて進むデンマーク」では、特定の業種においてキャッシュでの支払を拒否できる制度を推進するデンマークの動向を紹介しました。これは電子決済の普及による、キャッシュに対する相対的な地位向上トレンドを示す一つの事例でした。

キャッシュの相対的な地位低下のトレンドを示すもう一つの動きとしては、小額硬貨の流通停止/流通減少があります。まずはカナダの事例を紹介し、日本の状況についても考察します。

2012年5月、カナダは「ペニー硬貨」という愛称で親しまれていた1セント硬貨の造幣を停止、2013年2月に供給を終了しました。1858年に独自通貨を持って以来ずっと流通してきたペニー硬貨の供給停止によって、キャッシュを用いる取引では値段を5セント刻みに設定するなどの対応が必要でしたが、社会には大きな問題もなくスムーズに受け入れられたとのことです。(キャッシュレス取引では値段設定は1セント刻みが引き続き可能です。)

ペニー硬貨の供給停止の理由としては、その製造に1.6セントがかかっていたとことがよく挙げられますが、そもそもペニー硬貨の意義が薄れていたことが背景としてあります。例えば1900年代初頭には当時の1セントで現在の20セント程度のものが購入できていました。つまり1セントの購買力が100年間で95%低下してしまったのです。現在では1セントは値段の端数の帳尻を合わせるだけの意味しかなくなっており、そのために膨大な数のペニー硬貨をやりとりするコストを社会が嫌った、とも言えるでしょう。

なお、小額硬貨の流通を終了する取組はカナダだけの話ではなく、イギリス・フランス・スペイン・ノルウェー・スウェーデン・イスラエルなど多くの国で同様の事例があります。硬貨の流通は、社会や経済の変化に合わせて変わっていくものということです。

翻って日本。最近10年間の硬貨流通高の推移を下図に示します。

硬貨の流通高の推移

硬貨の流通高の推移

図に示したとおり、50円以下の小額硬貨の流通高は減少傾向にあります。近年の、電子マネーを含む電子決済の普及の影響がここにも表れていると言えるでしょう。1000円未満の小額決済での電子マネーの利用は拡大しており、小銭をやりとりする必要性が減ってきています。また、2014年4月の消費税増税では、再び1円刻みの値段設定が多くなるため、1円玉の需要が大きくなるとの予想がされましたが、実際には1円玉の流通高は増えなかったとのことですが、これも電子マネーの普及の影響とみられています。

最小硬貨としての1円玉の意義は、日本においても低下してきていると言えるでしょう。今のところ1円玉廃止論などは聞かれませんが、電子マネーを含む様々な電子決済手段の普及が確実に進む中、日本における硬貨の在り方も議論になっていきそうです。

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