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キャッシュレス決済の普及と「現金不要論」

ersler/Bigstock.com

キャッシュレス決済が社会のあちこちに浸透していっている現在、「そもそも現金は必要か?」と問いかけることには意味があります。そんな中、「現金不要論」に関して英国の有力紙The Economist※が報じましたので、その概要を紹介しながらキャッシュレス化の利点について考えてみようと思います。
※ 英国の保守系週刊紙で、世界中の政治家・企業経営者などの有力者に読者の多い高級紙。

出典

この記事では、現金(紙幣・貨幣)を全廃して電子決済に移行する利点と欠点が論じられています。

紀元前7世紀に発明されてからずっと、現金は最も便利な決済手段でした。しかし近年の電子決済の普及で、現金はその使命を終えたと考える経済学者もいるようです。その一人として、ハーバード大学のKenneth Rogoffの主張が紹介されています。Rogoffによると、物理的な貨幣を廃止することは、政府による徴税額を増やし、犯罪抑止に貢献し、金融政策の自由度を増大させるとのことです。なお、現在の資金流通に占める現金の割合は英国では3%程度で、米国では10%程度とのことです。大半の資金移動は銀行口座間の送金なので現金を介していません。

この記事では、現金全廃の利点として①偽造紙幣の撲滅、②脱税防止による税収増加、③金融政策の自由度の増大、の3つを上げています。日本で普通に生活にしていると偽造紙幣など見ることはありませんが、例えば2013年だけで英国イングランド銀行は68万枚、1,150万ポンド分の偽造紙幣を回収したそうです。

②は電子決済に移行すると資金移動が追跡しやすくなるため脱税しにくくなる点がポイントです。米Tufts大学の研究によると、完全キャッシュレス化によって米国の税収を1,000億ドルを増やす効果が見込めるとのことです。

③は、現金があると利率がゼロ未満になれないが、キャッシュレス化するとマイナス金利を実現できるため、金融政策の自由度が上がるという趣旨です。例えば米クリーブランド連邦準備銀行の論文によると、2008年金融危機の際の最適金利はマイナス6%だったとのことです。

反面、完全電子決済化の欠点としては、中央銀行の収支が悪化する可能性などが指摘されています。

このように、キャッシュレス決済は、消費者にとって便利なだけでなく、国家にとっても利点があるということです。日本でも2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けてキャッシュレス決済を広めようとの政府・自民党の動きがありますが、それは訪日観光客や消費者の利便性向上にとどまらず、政府を含む社会全体のコスト削減につながる可能性があることになります。