フィンテックの祭典Finovate
2007年から続いているフィンテックの老舗イベントであるFinovate。米国西海岸・同じく東海岸や欧州と場所を変えて、年に複数回開催されている「フィンテックの祭典」です。最近ですと、2016年2月ロンドンでのFinovateEuropeがあったところです。
今回はちょっと前にさかのぼり、2015年9月にニューヨークで開催されたFinovateFall2015を2回に分けて振り返ります。FinovateFall 2015は既に何度かこのインサイトでも取り上げていますが、今回は各サービスの内容についてもっと詳しく紹介していこうと主追います。
FinovateEurope2016の参考情報:
- イベントサイトはこちら:http://europe2016.finovate.com/
- FinovateEuropeの全てのデモ動画はこのリンクをクリック
- 聴衆の投票による「Best of Show」受賞6社のリストはこのリンクをクリック
FinovateFall2015の振り返り
まず上図は、FinovateFall 2015の全体概要。70社のフィンテック企業がデモを行いました。日本企業も約30社から約60名程度が参加していおり、日本におけるフィンテックへの関心の高さが窺えました。デモ全体を通して感じたキーワードは以下です。
- モバイルUX(User eXperience; ユーザー体験)による金融サービス利用層の拡大
- 80年代以降生まれのミレニアル世代の取り込み
- 事業者向け金融サービスでは、金融機関のサポートが薄かった中小事業者(SME; Small and Medium-sized Enterprises)を対象とするもの多数
- 技術的には、自然言語処理、人工知能、ビッグデータ分析、生体認証、イメージ処理の活用が進展
70社のデモを、サービス領域でプロットしたものが上の図です。消費者(C)向け・事業者(B)向け・金融サービス事業者(F)向けに大きく分けられますが、金融サービスの広い領域において多様なフィンテックが存在することがわかります。欧米の金融業界において既に進んでいるフィンテックの成熟が見て取れます。
上の全体マップのうちの各領域についてより詳しく見てみましょう。
消費者向けサービス
消費者向けサービスでは、モバイルUXを活かし、口座開設・利用時認証のフリクションの低減を狙うサービスが多数あったのが特に印象的でした。また、1980年代以降生まれの「ミレニアル世代」を対象とした、金融行動改善・資産運用サービスを支持を集めました。
筆者にとって特に興味深かったのは以下のデモです:
- Lexmark 音声インターフェイスによる口座開設
住宅担保型融資の申込みを題材とするデモで、画面操作ではなく音声インターフェイスでデータ入力を行います。スマホやタブレットでの文字入力の煩わしさを回避しています。デモでは、人間エージェントとのTVチャットで電子サインも含む業務プロセスを実演しました。支店訪問無しに申込みを完結させるというアイデアがわかりやすいデモでした。 - Gro Solutions キャリア連携、イメージ処理による口座開設
こちらもモバイルデバイスでの口座開設です。ユーザーが利用しているキャリアを識別し、ユーザーの同意のもとでキャリアから個人情報を持ってくる、というもの。モバイルでの大きなフリクションであるデータ入力を極力省いたプロセスを実現しているデモでした。 - BehavioSec 欧州で実績のあるビヘイビア(挙動)生体認証
キーボード、マウス、タッチ入力などユーザーが行う操作の特徴に基づくビヘイビア生体認証です。欧州で金融機関20社が採用しており、1100万ユーザーの年間5億件の取引に適用中とのこと。 - Kapitall M ゲーム型貯蓄・預金管理アプリ
同社はこれを「Prize-Linked Savings Account」、つまり「褒賞付き貯蓄口座」として位置付けています。同社はミレニアル世代向けのゲーム型金融プラットフォームベンダー。今回は、貯蓄・学生ローン返済・金融クイズへの回答、などでチケットを集め、宝くじに参加できるというゲーム型アプリを披露しました。 - PaySwag ゲーム要素もある、ハイリスク債務者向け債務・請求管理アプリ
こちらはハイリスク債務者向けの債務・請求管理。金融教育と健全な金融行動の促進を目的としていて、返済スケジュールの確認や返済が難しい状況でのリスケ申込機能に加えて、教育ビデオやゲームの要素も入っています。滞納を抑えて回収率が上がるとのことで、債権者・債務者ともWin-Winになる効果があるとのことです。 - Dyme SMSによる会話型貯蓄アプリ
モバイルでのコミュニケーションになれたミレニアル世代に、健全な金融行動を促進するアプリ。口座を登録したたとは、定期的に送られてくるSMSとやりとりすることで貯蓄行動が身についていくようです。
BtoCの請求・決済と送金
決済と集客については、カード決済を前提とするものと、独自決済を目指すものとの2種類がありました。また、請求書払いが多い米国の状況を踏まえ、メールベースでの請求書授受と決済を組み合わせたサービスも複数がありました。
ブロックチェーン関連のデモが思ったより少なかったのは、既に大手金融機関がその重要度を理解して既に動いていており、スタートアップ企業によるピッチの段階を既に過ぎていたと考えることができます。
この領域で筆者が注目したサービスは以下でした:
- Dynamics ボタン切替式多機能カード
カードとポイント、多通貨、クレジットとデビットなど、多機能決済機能を搭載できる物理カード。また、OFF状態では決済不能だが、券面上のボタン操作でONにすると決済可能になる高セキュリティカードなどは、カード利用に漠然とした不安を抱く消費者の多い日本においても価値はありそうに感じた。 - Tranwall ユーザー向けトランザクション制御アプリ
スマホアプリ上のユーザー設定で、カード利用時のオーソリ(取引承認)ロジックを制御できる。カード利用のOn/Off切替だけでなく、対面・非対面・キャッシングなど用途ごとにもOn/Offを設定可能とのこと。社員に渡してある法人カードのOn/Offを遠隔で切り替えるユースケースなども面白い。 - Soundpays 音波信号によるモバイル決済・送客
音波でトークンをやりとりすることで決済するサービス。ユーザーと店舗の間のやり取りは無く、加盟店側のインフラが軽量で済む利点。音波トークンはTV・ラジオ・動画などにも埋め込んで、クーポン配信にも利用できる。
これらのサービスについては筆者による雑誌記事にて、より詳しく考察しています:
- 「FinTechの祭典『FinovateFall 2015』 注目のサービスは『多機能カード』と『音波決済』」、CardWave2015年11・12月号
「FinovateFall 2015を振り返る(2)」に続きます!