ボタン操作で機能を切り替えることができる高機能カード。米国Dynamics社の製品で、筆者も2015年時点から注目してきました(例えばカードウェーブ誌2015年11月・12月号記事への寄稿)。三井住友カードは同社の「ロック機能付きカード」の発行を発表したばかりですが、米国で開催中のCESでDynamicsはさらに上をいく高機能カードを発表しました。今回はその機能概要を紹介します。
関連情報
- 「FinTechの祭典「FinovateFall 2015」 注目のサービスは「多機能カード」と「音波決済」」、カードウェーブ2015年11月・12月号記事
- 「三井住友カードと米国Dynamics Inc.が提携し、世界初「ロック機能付きクレジットカード」を近日発行予定」、三井住友カード株式会社プレスリリース、2018年1月9日
Dynamics社の「Wallet Card」
2018年1月9日から12日の日程で米国ラスベガスにて開催中のCES2018にてDynamics社が発表したのが、携帯電話と同じ通信デバイス(ICチップとアンテナ)を搭載したペイメントカードである「Wallet Card」です。CES2018では4つのイノベーション賞を受賞するという快挙も果たしています。
出所:
- 「DYNAMICS ANNOUNCEMENT FROM CES」、Dynamics, Inc.
カードそのものに通信機能が付くと何が嬉しいか?と思うかもしれません。しかしこれは、物理カードと一体化していたカード口座情報(カード番号やそれに付随する暗証番号など)を切り離すことができることを意味します。つまり、空の物理カードを店頭などで配布し、カード情報はイシュアから直接カードにダウンロードする、という使い方が可能になります。
この「Wallet Card」にはディスプレイも付いており、カードをONにしたときだけカードの券種(クレジット、デビット、プリペイド、など)やカード番号が表示されるようになっています。しかしもっとすごいのは、イシュアからカードへのメッセージを表示することもできるという点。例えば、カードを利用した直後に、その利用通知をカード本体に表示することもできます。
カード上に表示することができるのは何もカード利用通知だけではありません。イシュアが送信したいメッセージは何でも送ることができるので、例えばカードホルダーの誕生日を祝うメッセージを割引クーポンと一緒に送信する、などといった利用促進も可能とのことです。
物理カードは、磁気ストライプやEMVチップ(接触と非接触の両方)の情報を書き換える機能を持っているため、例えばカードの更新時には単に新しいカード番号等をイシュアからカードに送信するだけ。物理カードの郵送も不要で、会員は特に何もする必要がありません。
紛失時のカードの交換も同様で、新しいカード番号等をイシュアから送信するだけですみます。
このような新しい機能を持ったカードですが、「本当にカード業界に受け入れられるのか?」と思う読者もいるかもしれません。実はDynamics社はこの通信機能付きカードの普及に向けた「Wallet Cardコンソーシアム」を設立済みで、そこにはVisa・MasterCard・JCBという大手国際ブランド3社、日本の大手イシュアである三井住友カード、キャリアではソフトバンクと米Sprintといった超大手がすでに加盟しています。
Dynamics製のロック機能付きカードを発表したばかりの三井住友カードも、この「Wallet Card」の発行を既に計画しているそうで、さらにJCBも同様の計画を持っている模様です。
Dynamics社の動画
以下は、Dynamics社がYouTubeにアップロードしている動画「Dynamics Announcement at CES 2018」です。
45分ちょっとという長い動画ですが、日本の決済関係者は特に以下の実演を見ると参考になると思います。
- 1分50秒ごろ:カナダのCIBCが発行しているTim Hortons Double Double Visaカードの実演
- 6分50秒ごろ:インドのInduskand Bankのカードの実演
- 10分50秒ごろ:三井住友カードの「MAMOLEAD」の実演
- 18分55秒ごろ:「Wallet Card」の実演1
- 24分50秒ごろ:「Wallet Card」の実演2
- 32分40秒ごろ:Emirates NBDからの「Wallet Card」の実演
- 37分00秒ごろ:発行予定の「Wallet Card」の一覧(日本からは、三井住友カード、JCBが入っています)
取扱高が順調に拡大している日本のカード決済。とはいえ、カード利用への漠然とした不安から、カードを敬遠している人が多いことも事実です。カードの高機能化が、カード利用のさらなる掘り起こしにつながるか、大変興味深いところです。