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中国決済ネットワーク動向と「網聯」の登場

2017年5月に、LINE Payのユーザー数が3,000万人を突破したとの発表がありましたが、2016年のApple Pay上陸以降、日本でも着実にモバイル決済が普及しているように感じます。

そんな中、「Alipay日本上陸」に関する新聞報道が先日あり、”いよいよか”と感じた方も多かったのではないでしょうか。

今やモバイル決済の分野においては中国が取引件数・金額ともに世界でも突出しており、世界有数のモバイル決済先進国であるといえます。

その中国で、AlipayやWeChat Payに代表される中国のサードパーティ(第三者)決済事業者にとって大きな影響を与えかねない施策がこの春より始まっています。

今後、日本だけでなくグローバルに展開していくであろう彼らのビジネスを巡る環境を理解する上で、参考になると思い、今回はその概要をご紹介します。

中国における清算/決済ネットワークを巡る情勢

中国においては、2002年に設立された銀聯(Union Pay)が銀行間ネットワークを構築し、このネットワーク上で銀行間の清算や銀聯カードなどの決済サービスが提供されていました。今までは基本的に送金や銀聯カードを用いた決済などの取引については必ずこの銀聯ネットワークを通じて取引が行われており、清算機関として大きな役割を果たしていました。

しかし、近年中国国内で急速に普及しているAlipayやWeChat Payを始めとするサードパーティ決済事業者が提供するサービスでは、従来の銀聯ネットワークを用いない取引が発生しています。

Alipayなどではユーザーは自分の銀行アカウントからAlipay上の仮想アカウントに入金し、その入金したバリューを決済や送金に用います。この際、各サードパーティ決済事業者は各金融機関とそれぞれ独自に接続しチャージなどを行っています。一旦チャージしたバリューは、それぞれのサードパーティ決済事業者のサーバ上で管理され、決済や送金の取引情報はインターネット網を通じて各事業者のサーバで処理されます。

このため、従来は銀聯ネットワークが担っていた清算・決済機能を用いない取引が急速に増えていくことになったのです。

このような状況について、中国の中央銀行に相当する中国人民銀行は、新しい決済サービスの発展を阻害しないようにとしばらく静観を続けていましたが、2016年の中国におけるサードパーティ決済事業者の取扱高が38兆元(約617兆円)を超えるなど急速な拡大を続けており、ついに規制に乗り出すことになりました。

中国人民銀行が問題視したのは大きく下記の点だと言われています。

  • 資金の流れが不透明になるため、顧客保護の観点における金融監督業務が困難である
  • 同じく、不透明な資金の流れはマネーロンダリングなどの温床になりかねず、監視が必要である

特に、中国におけるサードパーティ決済事業者のビジネスモデルの特徴として、ユーザーから預かったプリペイド資金を銀行に預けることで、そこから得られる利息を主要な収益源としている点が挙げられます。2016年にはその預け入れられている資金が5,000億元を越えたとの報道もあり、金融規制の範囲外で顧客の預入資産が運用に回されるという状況に陥っており、システミックリスクを孕んでいました。

また、個々の金融機関にとっても、顧客の取引データが蓄積出来ないため、適切なマーケティング戦略が採れないなどの問題が生じており、各銀行から公平・公正な市場環境の整備が要望されていたとも報じられています。

網聯設立による変化と展望

上記のような状況の中、中国人民銀行は2つの施策を相次いで打ち出しました。

1つ目は、顧客から集めた資金に対して一定の割合(12%~24%)を供託金として利息の付かない口座に預け入れる義務を課しました、ちなみに、この供託金の割合は今後100%まで引き上げるとしています。

そして、2つ目は本稿の主題でもある、清算機関「網聯」の設立です。網聯は、サードパーティ決済事業者と金融機関の間に入り、それぞれの取引を仲介する目的で設立されています。これにより、各サードパーティ決済事業者及び各金融機関はそれぞれ個別に提携する必要はなくなり、網聯にのみ接続すればよい状況となります。(2017年3月より試験運転を開始済み。)

網聯の設立により、資金の流れの把握やアンチマネーロンダリング業務の確実な遂行など、現在中国人民銀行が問題視している状況の打開が期待されています。特に、顧客保護という観点については、上でも触れた供託金に関する新規制に加え、実際の資金の流れを詳らかにする網聯の設立により制度の確実な運用が可能になると見られています。

また、各金融機関にとっても顧客の取引データが以前よりも明らかになることで、より精度の高いマーケティングが実現できるという利点もあるでしょう。

しかし、サードパーティ決済事業者にとっては、各金融機関との個別接続の負荷は低減されるものの、今までの独占していた取引データが開放されるなど負の側面も多いように見受けられます。

そのような状況においても、AlipayやWeChat Payを運営するTenpayは負の側面を理解した上で、網聯の設立に関してそれぞれ10%ずつ出資を行っております。

また、網聯には総勢44社の株主がいますが、AlipayやTenpayも含めたサードパーティ決済事業者の株主はその内38社にも上ります。(最大の株主は中国人民銀行)

この背景には様々な事情があるとは思いますが、サードパーティ決済事業者も中国におけるモバイル決済を次のステージに持っていき、業界の継続的且つ健全な発展を目指していくという意思の表れとも受け止められます。

日本を始めとする中国国外への影響としては、網聯の設立自体よりも供託金に関する新制度により、サードパーティ決済事業者のビジネスモデルが変革を迫られるという点の方が大きいかもしれません。(AlipayやWeChat Payはそもそも多角的にサービスを展開し、収益も確保しておりますので影響は限定的かもれませんが)

しかし、中国のモバイル決済分野は確実に次のステージに突入しており、今後中国のモバイル決済がより一層(しかも健全に)成長していくことを示唆しているのではないでしょうか。

日本における事業環境は大きく異なりますが、モバイル決済先進国である中国の事例について、参考に出来る部分は参考にしながら、今後更に国内でモバイル決済の普及が進んでいくことを期待しています。

(ちなみに、網聯は中国語で”Wang lian”と発音するそうですが、当社では銀聯に倣い日本語風に”もうれん”と読むことにいたしました。)

参考情報: