毎年春にサンノゼで開かれるFinovateSpring、秋のニューヨークでのFinovateFall、そして冬のロンドンでのFinovateEuropeからなるFinovateはまさにフィンテックの祭典。日本からも多くの参加者が訪れ、FinTechの将来像を見通す参考にしています。
2016年5月10日・11日の2日間にわたって米国西海岸のサンノゼで開催されたFinovateSpring2016に参加して参りました。まず本稿では全体概要をご紹介しようと思います。
FinovateSpring2016概要
FinovateSpring2016は日本からの参加者も多数。モバイルUX・リアルタイムAPI連携を駆使したサービスなどは日本FinTechにも参考になる。Finovateはデモ主体であることを特徴とするピッチイベント。2日間の期間中、ひたすらデモを聴講します。スライド等の説明資料は使用禁止で檀上のリアルタイムの実演のみ。臨場感あふれるフォーマットで、欧米FinTechでのサービス開発の動向を窺うことができます。
今回はフィンテック企業71社が登壇。スタートアップ企業ばかりではないところがミソで、IBMやNCR、AdobeなどIT大手も堂々とFinTechへの取組みを語ります。また、スタートアップ企業から登壇するのも若手起業家とは限らず、経験豊富なベテラン起業家も多数。FinTechにしても起業にしても、米国の層の厚さを感じさせます。
事前登録ベースの参加者名簿を見ると、日本企業からの聴講者は約50社から約100名。FinovateFall2015では30社・60名程度でしたので、大幅に増えています。日本におけるFinTechへの関心の高まりと、予算を使ってでも海外事例情報を入手したい国内プレイヤーの取組み振りが印象的でした。
さて、FinovateFall2015に関するインサイト記事でも書きましたとおり、日本FinTechよりも幅広い領域をカバーしている米国FinTech。多種多様な新サービスのデモが行われましたので、全体を貫くテーマを特定することは難しいのですが、筆者の印象に残った点を列挙すると以下になります。
- モバイルUX・リアルタイムAPI連携を駆使した金融サービスのフリクション除去
- 個人の購買データの分析に基づいて、よりよい購買行動を提案するタイプの送客サービス(顧客の納得感も大きい!)
- 金融機関向けFinTechではチャネル連携の深化と、データアナリティクスによるリスク分析・カスタマーサービス・戦略立案支援の高度化
- 技術的にはリアルタイムAPI連携、人工知能、ビッグデータ分析、生体認証、イメージ処理
本当に多様なデモがあったのですが、日本のFinTechプレイヤーにとって重要な視点は2つ。一つは、日本でも話題になっているAPI連携。国内ではまだこれから具体化されていく状況ですが、FinovateSpring2016ではすでに、APIによる異業種リアルタイム連携を用いたサービスのデモが幾つか出ています。これらを日本にそのまま持ってくる必要はないのですが、「API連携が普及した暁のサービスイメージ」を考えるには大変有益な参考情報と思います。
二つ目の観点は、ペーパーレス化が進展した時点でのサービスイメージ。まだまだ書類ベースの業務が多い日本の金融ですが、マイナンバー制度の一貫として、各種の重要書類のペーパーレス化を支える国家インフラである「マイナポータル」の準備が着々と進んでいます。FinovateSpringでのリアルタイムデータ連携サービスデモは、マイナポータル活用によるサービスのイメージを考えるうえでも有益でした。
マイナポータルに関するインサイト記事は以下:
- 「FinTechのドライバーとしてのマイナンバー制度」、インフキュリオン・インサイト、2016年3月31日
サービス開発動向
上の図は、登壇71社すべてを、サービスのエンドユーザの観点から分類してみたものです。消費者向けが32社で最多ですが、金融サービス事業者向けが28社と大きな存在感を持っています。FinTechと従来金融の連携のエコシステムを強く感じます。
FinovateFall2015と比較すると、消費者向けサービスにおける「借りる(融資)」・「資産を運用する」という金融コア業務での充実度が印象的です。逆に、事業者向けサービスはもともと数は少なかったのですが今回はさらに少なくなっていました。
さて本稿での概要紹介はここまでとしますが、今後もインフキュリオン・インサイトにおいて日本FinTechの参考になる海外サービスなど順次取り上げていこうと思います。ご期待ください!
FinovateSpring2016の全てのデモは以下のサイトで公開されています: