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中国デジタルバンク最前線(1)WeBankと個人向けレンディング

中国のインタネットエコノミーで圧倒的な存在感を誇る2社と言えば、「WeChat」で有名なテンセント、そしてECの雄であるアリババ。この2社はデジタルバンク設立によって、既に銀行業界にも進出しています。中国銀行業界までDisruptされていくのか、という観点から2回に分けて中国デジタルバンク動向を分析します。今回はテンセント系銀行であるWeBankに関する沿革・ビジネスモデル・財務指標を分析。個人向けレンディングの高い収益性の裏にある、銀行提携スキームと高度なリスク管理について考察します。

なお、次回「中国デジタルバンク最前線(2)」では、アリババ系デジタルバンクのMyBankについて紹介し、WeBank・MyBank両行の比較、そして両行と伝統的な銀行との関係性について分析していく予定です。

始まり:民営銀行が可能となった経緯

制度的には「デジタルバンク」という分類はありません。ただし、民間資本に属するテンセントやアリババが銀行業界へ進出するためには、まず「民営銀行」が法的に許可されることが先決でした。

その一連の法整備は以下のような時間系列で進められました:

2012年5月:銀行業監督管理委員会(銀監会)が「中国銀監会による民間資本の銀行業参入の奨励と誘導に関する実施意見」を公表し、民間資本が国有資本と同じ条件下で銀行業へ参入することを支持すると明言。
2013年7月:国務院弁公庁が「金融による経済構造の調整および転換・高度化への支持に関する指導意見」を公表し、民間資本がリスクを自己負担する前提で民営銀行を発起・設立することを試みるべきだとしました。
2014年7月:銀監会の主席(トップ)が民間資本による「民営銀行」3行(WeBank、温州民商銀行、天津金城銀行)の設立を認めると公言。
2014年9月:銀監会の主席(トップ)がさらに「民営銀行」2行(MyBank、上海華瑞銀行)の設立を認めると公言
2015年6月:銀監会が民間企業に対する銀行参入規制を撤廃すると発表し、民間資本100%の新銀行の設立を可能としました。

このような背景の元で、テンセント系のWeBankは2014年、アリババ系のMyBankは2015年に設立されました。

WeBankの基礎データ

設立年月日:2014年12月16日
資本金:42億人民元(約626億円)
従業員数:500-2000人
主要株主:テンセント(30%)1テンセントが30%しか占めていない理由:単一株主に対する出資比率規制(30%)、立業集団(20%)、百業源集団(20%)

業務範囲:

  • 大衆、主に個人や零細企業からの預金吸収
  • 主に個人や零細企業を対象とした短期・中期・長期貸付
  • 国内外の清算業務
  • 手形引受・割引業務;金融債の発行
  • 公共債の発行・元利払い・受け売り業務の代行
  • 公共債・金融債の売買
  • 銀行間取引業務
  • 外国通貨の売買・売買代行
  • 銀行カード関連業務
  • 信用状関連サービスおよび担保サービスの提供
  • 資金の受払代行および保険業務の代行
  • 貸金庫サービス
  • ファンドの販売
  • その他銀行業監督管理機関および関連部門に認可された業務

それでは、WeBankについて詳細に分析していきます。

WeBankの沿革、パフォーマンス・将来性分析

満を持して登場するも出鼻をくじかれるWeBank

WeBankは発足してすぐ直面した難題が預金獲得でした。というのは、「デジタルバンク」と自ら位置付けたWeBankは物理的な支店を設けませんでしたので、必然的にオンライン口座開設しかできません。しかし、WeBank設立から約1年間は、そもそもオンライン口座開設が法的に許可されていなかったのです。

2015月の12月になりようやく法改正が行われましたが、オンライン開設が可能なのは、現金引出し不可という制限のある「II類口座」までで、一般的な口座である「I類口座」は対面チャネルでしか開設することはできないという内容でした。

II類口座では、現金引出しはできません。口座の資金は振込み等で移動させることになります。使い方はWeChatペイの残高とほとんと変わらないことになり、ユーザーにとっては口座開設するインセンティブが感じられないものとなりました。さらに、II類口座は既存銀行の口座に紐づける形式でしか開設することができないため、既存銀行側の意向に左右されることになります。主導権が完全に伝統的な銀行に握られることになりました。実際、大手である招商銀行は紐づけを拒否したと報道されています。

紐付けの必要性について中央銀行である中国人民銀行は、銀行従業員による対面での本人確認なしではなりすまし等の不正な口座開設を防止することが困難と説明しています。結果的に、WeBankは貸付や資産運用などの収益業務の元となる貸出原資を、金利の高い銀行間融資で調達することを余儀なくされました。

その苦境は2017年まで続いていましたことが、WeBankの2015年-2017年の財務データで確認できます。

WeBankの2015年-2017年の財務データ

図1:WeBankの2015年-2017年の財務データ
出典:WeBank2017年度の年度報告書に基づき筆者作成

2015年度の負債総額72億元近くに対し、顧客預金はそのうちのわずか2%しか占めず、残りの98%は銀行間融資で賄われたことがわかります(図1)。銀行間融資は金利が高くかつ借入期間が短いため、WeBank自身による貸付の利息収入が削がれ、結局-6億円の純利益で2015年度を締めくくりました。

「金の卵を産むガチョウ」― 個人向けレンディングサービス

顧客預金の負債総額に占める割合は2017年まで低いまま(10%未満)でありましたが、2016年および2017年の純利益は打って変わってそれぞれ4億元、14.5億元(図1)を計上しました。これは、WeChatの個人に対する圧倒的な浸透率という強みが発揮されてきた結果と考えられます。具体的には、2015年5月から開始した個人向けのレンディングサービス「微粒貸」の拡大です。

「微粒貸」のターゲットは銀行から低い金利で借入を行うことができない層。2018年の年度報告書では、ユーザーの約80%の最終学歴が短大以下、約4分の3が非ホワイトカラー労働者としています。日利は0.02%―0.05%に設定されていますが、年利換算すると最高18.25%(最高実質年利が27.375%、下記を参照)となります。

しかし、送客チャネルがどれだけ強くとも、原資が足りなければ貸付はできません。WeBankはそこで、他の銀行と共同で貸付を行うことにしました。貸付原資の20%がWeBank、残る80%は提携銀行が負担するようにしつつ、利息収入は30%がWeBankで70%が提携銀行で分配するというスキーム。テンセントによる集客力によるプレミアムとして、信用リスクに対して1.5倍、つまり最高18.25%*1.5=27.375%の収益を享受しているわけです。

たった1年で顧客預金額が2795%の猛成長を遂げる

先ほど、2017年までは顧客預金の負債総額に占める割合が低かったと述べましたが、そこは伏線がありました。

WeBankの2018年の年度報告書を見ていただくと、驚くべきことに、顧客預金額が2桁も跳ね上がっています。これはどうしたことでしょうか。

WeBankの2016年-2018年の顧客預金額の推移

図2:WeBankの2016年-2018年の顧客預金額の推移
出典:WeBank2018年度の年度報告書に基づき、筆者作成

これは2018年度に開始した「スマート預金+」の効果です。ユーザーはいつでも即時出金可能ですが、預入期間に応じて利率が上がっていくよう設定されています。驚くのはその利率で、預入期間が1か月以内だと2.8%、1-3か月だと4%、1-5年間ではなんと4.5%に跳ね上がります。いくら中国の経済発展はすさまじいものがあるとしても、元本保証で利息4.5%は想像を絶しています(この点が問題視されたのか、サービス開始から4か月で銀監会に販売停止を命じられましたが、2019年に金利を変更して再開しています)。WeChatの送客力を活用する体制が整ったのか、WeBankは一年間で顧客預金額が負債総額に占める割合を7.3%から74.2%という健全な水準に引き上げ2その背景に、中央銀行が「銀行間融資」の負債総額に占める割合を三分の一以下にしなければならないという規制の発布があります。、金額を28倍近く増やしたという壮挙を成し遂げました。これにはさすがと言わざるをえません。

2018年末時点で、WeBankのユーザー数は1億人を超えています。貸付総額は3000億元、そのうち1198億元がWeBank自身による貸付と、なかなか輝かしい業績となっています。

財務指標分析―2018年度の財務諸表を元に

では、2018年度の財務データを主軸に、前年度との比較をしながらWeBankのパフォーマンスを分析していきましょう。

WeBankの2016年-2018年の財務データ

図3:WeBankの2016年-2018年の財務データ
出典:WeBank2018年度の年度報告書に基づき、筆者作成

売上:WeBankは2018年度に100.3億元を上げ、前年度に比して48.6%の成長を遂げ、さらに2016年度を起点に32015年は1年間のデータがなく、比較が困難なため(2015年6月に創立) CAGR(年平均成長率)を計算すれば、それが60%になり、WeBankの業務規模が順調に拡大していることがわかります。

純利益:WeBankは2018年度に24.74億元を計上し、前年度に比して70.8%の成長をも遂げました。さらに2016年度を起点にCAGR(年平均成長率)を計算すれば、なんと83.4%という驚異的な数字になります。

しかし、驚くに値するのはこればかりではありません。純利益の上に「引当前営業利益」、「資産評価損」が記されていますが、これは回収できない不良債権による損失の発生に備えて負債に繰り入れられる項目(引当)であり、もちろん純利益もその分削がれます。しかし、不良債権率が0.51%であるのに対し、貸倒引当率が4.30%であり、つまり実際の不良債権額の8.48倍(引当カバー率)の金額(貸付金総額1198.2億*4.30%=51.5億)を純利益から差し引き、負債に繰り入れられています4WeBankの貸倒引当率・引当金カバー率の高さは法規制に負うところが大きいと考える方がいるかもしれませんが、現行の規制値(これより低くなってはならない)は貸倒引当率が1.5%~2.5%、引当金カバー率が120-150%です。 。つまり、WeBankの実際に稼いだ純利益は財務諸表の数値よりも高く、収益性も同様であると言えます。

負債総額:「スマート預金+」の箇所で説明しましたのでここでは省略させていただきます。

収益性を表す指標であるROA、ROEをめぐって展開するデュポン分析5自己資本額(事実上所得者権益額が使用される)、総資産額および関連指標の算出には平均値((期首値+期末値)/2)を使用しております。

WeBankデュポン分析

図4:WeBankデュポン分析
出典:WeBank 2018年度の年度報告書に基づき、筆者作成

WeBankは2018年度において、資産収益率(ROA)が1.64%、純資産収益率(ROE)が24.41%であり、財務レバレッジが14.48でした。銀行は預入、つまり負債により成り立つ商売なため、資産(純資産+負債)収益率が低いのは当然ですが、ROEに関しては大手銀行である招商銀行の16.57%と比べると、収益性の高さが際立っています。((なお、五大銀行6五大銀行とは中国における五つの支配的な地位を持っている国有商業銀行(大型商業銀行)を指します:中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行、交通銀行 はすべて招商銀行より低いROEとなっています。)

前年度である2017年度と比較すると、総資本回転率を除いたすべてのドライバー(AからEまで)において改善があったことがわかります。総資本回転率に劣化があったというのは、つまり2018年に新しく吸収した預金に対して2017年ほど効率的にそれを使ってマネタイズすることができなかったことを意味します。

具体的には、財務レバレッジ、総資本回転率、売上高純利益率の2017年から2018にかけた変動はそれぞれROEに12.96ポイント、-10.98ポイント、3.18ポイントの影響を与え(因子分析7因子分析は2017年度のROE数値をベースにし(0回目)、三回に分けて2018年度の財務レバレッジ、総資本回転率、純利益率をそれぞれ代入していき(変動の度合いが大きい順に)、それぞれのドライバーの変更がROEに対する影響を「今回の代入で結果となるROE数値引く前回の結果として出るROE数値」で割り出しています。順番によって結果が異なるため、具体的な数値ではなく、数値の大きさの順番に注目すべきです。)、すなわち財務レバレッジはROEを最も増加させた要素であることがわかります。しかし、これ以上財務レバレッジが増えることは想定しにくいため、WeBankにとってこれから後ろの両者、特に総資本回転率の向上が大きな課題となるのでしょう。

また、売上高純利益率を分解すると、税金費用管理効率およびその他諸費用管理効率が得られ、それぞれ7.2%、7.7%の改善、つまり収益性に傾けた努力が見られます。

不良債権率:2018年度は0.51%であり、2016年度の0.32%に比較すれば上昇しています。しかし五大銀行8五大銀行とは中国における五つの支配的な地位を持っている国有商業銀行(大型商業銀行)を指します:中国銀行、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行、交通銀行の不良債権率が1.50%前後であることを考慮すると、WeBankのリスク管理能力にただただ感心するばかりです。
無論、貸付の急激な上昇や以前に計上した引当金の取り崩しにより不良債権率を低い水準に抑えているという可能性も考えられます。しかし時系列で分析すれば、WeBankの不良債権率は常に五大銀行よりもはるかに低い水準を維持してきていることがわかります。また、引当金を取り崩すとしても、貸付金の総額はそれが追い付かないほどに増えているためそれにより相殺される不良債権率の度合いが低いでしょう。結論としては、不良債権率の低さはWeBankの系統的なリスク管理能力による賜物であると筆者は見ています。

引当カバー率:2018年度は848.01%であり、つまり不良債権額の8.48倍の引当金が用意されていることを意味します。かなり高めの数値になっており、将来の雲行きに対する不安感を含意するように思われます。

貸倒引当率:2018年の数値は4.30%であり、不良債権率に引当金カバー率をかけることにより求まります。

資本充足率(自己資本比率):2018年度は12.82%であり、連続2年間下落を続けてきましたが、大幅に預金を吸収し、貸付を行う時期(ゆえにリスク資産の増加)では、リスク資産の増加率はどうしても収益の上昇率を上回るため、それはしかたないことと理解していいでしょう。しかし、大幅に預金を吸収する時期が終わった後に、WeBankはしっかりと預金を運用することで収益を上げ(または資金調達)、自己資本比率や流動性比率を比較的高い水準に維持することができるのかは注目に値するでしょう。

 展望

評価点:

既存事業の収益性
すでに述べたように、WeBankの現段階の収益性は疑いようがありません。ましてや貸倒引当率が実際の不良債権率より8.48倍も高く、つまり隠された利益を考慮すれば実際のROEが上の30.22%よりも高いことになります。
その上、WeBankの収益性の持続性は広い「経済の堀」に裏付けされています。主要なユーザー層は銀行から借入を行うことができず、個人向けレンディングに頼らざるを得ない層。しかもほぼ毎日開くと言っていいWeChatやQQ(若年層向けのSNSアプリ)からの送客動線がいかにも「太く」、かつ他のどこの馬の骨とも知らないような個人向けレンディングサービスに比べてよほど安心感があります。この事業の収益性はしばらく続きそうでしょう。

 懸念点:

預金規模を持続的に拡大できるのか
上ではWeBankは「スマート預金+」プランを展開することで一気に預金規模を健全な水準に拡大してきたと述べましたが、それが差し止められて再展開するも金利が大幅に下がっている現在(図5)、果たしてWeBankはより多くの貸付や他の業務を行えるように預金規模を持続的に拡大することができるのでしょうか。2018年の年末に差止が命じられ、2019年になり金利を変更して再開しています。今年度の業績に関しての情報はまだありませんので、2019年の年度報告書には目が離せないでしょう。

「スマート預金+」の規制前後における金利変化

図5:「スマート預金+」の規制前後における金利変化
出典:WeBankアプリ, 筆者作成

不良債権率をずっと低い水準に維持することができるのか
さて、貸倒引当率の異常な高さについて既に述べましたが、その裏を返せばWeBank側の将来の不良債権率に対する悲観的な見方も見え隠れしているのでしょう。
銀行から借入を行うことができない層を狙うのは高い収益性に繋がります。しかしこの層に属するユーザーは信用情報が弱く、貸倒するリスクをカバーするため高い金利を課さなければなりません。しかし、そもそも返済能力が乏しいため、金利を上げれば貸倒のリスクも増すという一種の逆説が生まれます。
仮に現在の低い不良債権率が、WeBankの強力なリスクコントロールシステムによるものだとしても、さらなる収益性を求めてより高リスクの層をターゲットとしていくとしたとき、果たして不良債権率を低いまま維持できるのかどうかが論点となります。

事業の単一性
上で不良債権率に対する懸念を述べましたが、これはWeBankが個人向けレンディングサービスに頼っている分だけ顕著にあります。無論、WeChatはアリババと同じように零細企業やバーコードマーチャントへの貸付や積極的なR&D、技術移転をも展開しており、それが売上に占める度合いこそ年度報告書から読み取れませんでしたが、これからはそのような事業の収益向上化がひとつ大きな課題となるでしょう。

では、WeBankについての紹介はここまでにして、次回はアリババ系デジタルバンクのMyBankについて紹介し、WeBank・MyBank両行の比較、そして両行と伝統的な銀行との関係性について分析していきます。